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あんまりヒナタがハナビを気にかけるから思わず意地の悪い事を
ネジは試すように言っていた。もちろん、ヒナタがそれを認める
なんて出来ないのを知っていて、である。
「そっ、そんな・・・それだけは・・・っ・・・」
ネジの腕に縋りついたままヒナタは悲しそうに俯いてしまった。
「ネジ兄さんだけは・・・誰にも譲れません・・・」
小さく呟くヒナタのその言葉にネジは改めて満足を覚える。
保守的なヒナタである。
一族が決めた婚約が決まると同時にうまく宥めて関係を持ってしまえば、
もうネジの思うがままであった。
(ヒナタ様はもう俺から離れるなんて出来まい…)
ずっと幼い頃から一筋に愛してきたヒナタを手中に出来た幸せに
ネジは顔が緩むのを必死で抑えるのに最近では苦労する程で。
それでも上忍に相応しく感情を零さぬ所は流石であった。
ヒナタを愛しいと思いつつネジは一切表情には出さず冷静に
話しかける。
「貴女の考えすぎだ、ハナビ様が冷たいのは貴女のせいじゃないよ。」
「え?じゃ、じゃあ、どうして?」
「思春期というものさ、そういう年頃だろう?
ああ、それに反抗期も 重なるか。」
「あっ、そ、そうですね、た、たしかにっ」
素直で優しいヒナタに反抗期など見られなかったから、
彼女には思いもつかなかったのだろう。だがネジから改めて
そう指摘されれば納得がいく。
そうか、そういう時期だったのかとヒナタはあの幼かった
ハナビがと感慨深げに何度も頷き、涙ぐみさえしていた。
それにまたしても少なからず嫉妬をおぼえてしまう。
だが彼女はハナビに対して母親がいない分愛情を注いで
いたのだと思い出してネジはその感情を何とか抑えた。
そんなネジの葛藤など知らず無邪気にヒナタが微笑んでくる。
「よ、良かった、じゃあ、そういう時期なだけなんですね?」
小首を傾げるヒナタの愛らしさに、ネジの表情は自然和らぐ。
「ああ、だから適当にあしらってればいいんだ。
唯の八つ当たりのようなものだからな。」
そう優しく諭してネジは愛しいヒナタの手を取った。
そして先ほどから彼女に漂う甘い香りに口の端を上げる。
「そういえば今日は・・・」
そこでヒナタが大きく震えた。
一気に真っ赤に染まりオタオタと困ったように視線を泳がせる。
「どうした?何を焦っている、俺が何も知らないとでも?」
「あっ、そ、それはっ・・・で、でも・・・」
「見せてみろ、その後ろに隠してあるもの。」
そういって縁側の後ろの部屋に視線を向け、ネジが促すと
ヒナタは観念したのか襖をあけて綺麗に包装された箱を手に取り、
もじもじとしながら、ネジへと手渡した。
「ネ、ネジ兄さんにっ・・・お口に合えばいいのですが・・・」
気持ちだけは沢山詰め込みましたから、と小さく付け加える
ヒナタにネジは微笑し小箱の包装をとく。
すると現れたのはチョコケーキであった。
「・・・・・・」
「あ、あのっ、ネジ兄さん?」
箱を開けて固まるネジにヒナタが不安そうに声をかけてきた。
だがネジはどうしたものかと困惑してしまう。
なぜならチョコケーキにクリームで丁寧に描かれている文字、
それは・・・。
『愛する ネコ 兄さんへ』
(・・・ネコ兄さん?どう切り返せばいいんだ?笑ってやればいいのか?
しかし彼女が冗談でこんな事するとは思えないし、かといってこんな
間違いをするとも考えづらいし・・・)
どう対処していいのか、数瞬迷っているとヒナタがネジの手元へと
おそるおそる身をのりだしてそのケーキを覗き込んでしまった。
そして、小さく悲鳴を零して羞恥に声を失くし真っ赤になってしまう。
「あっ、あっ、ああっ・・・な、なっ、なっ」
「なんで?と言いたいのか。だが間違いは誰にでもある、気にするな。」
「あぅっ、ああっ・・・」
羞恥に狼狽激しいヒナタの様子に苦笑しながら、
ああ、可愛いなあとネジは目を細めた。
そうして再びケーキに視線を戻し、ネジは、ふと気付く。
よく見ればネコの文字だけ妙に右上がり。神経質そうな文字に、
ピンと来るものがあった。はたと遠くから感じる気配にネジはフンと
鼻を鳴らした。
(ハナビ様の仕業か・・・まったく・・・)
普段大人びていても、やはり子供かと溜息を吐いて。
ではお仕置きが必要だな、とネジはヒナタを抱き寄せた。
「ネ、ネジ兄さん?」
「しっ、黙って・・・」
すかさずネジはヒナタの唇を奪う。そうして遠くから自分たちを
覗きみるハナビの気配が動揺するのを確認しながら、見せ付ける
ように濃厚なキスをヒナタに浴びせ続けた。
朝からこんな明るいところでネジからキスされる事はなかったから、
ヒナタは小さく震えてネジの胸を叩く。
だがネジはそんなヒナタに余計熱くなってしまい、縁側へと倒れこむ
ようにヒナタへ覆い被さるとヒナタの胸元へと手を這わせた。
と、居た堪れなくなったのか、ハナビの気配が完全に消えてしまった。
少しクスリが効き過ぎたかと身を起こしヒナタから離れようとしたが、
うっとりと我を失うヒナタを認めるとネジは彼女を抱きかかえ
奥の部屋へと入っていったのだった。
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