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その日の夕刻、ハナビは悶々と自室でふせっていた。

朝、愛するヒナタがネジとキスをしているさまを嫌と言うほど

見せ付けられて、かなり参っていたから。

(どんなに好きでも姉妹だし・・・女同士だし、どうしようもないのはわかっているけれど・・・)

どうして自分は普通に異性に好意をもてないのだろう?

気がつけばテレビでも雑誌でも可愛い同性にしか目がいかなくなっていた。

そうしてその最たるものといえば姉であるヒナタで・・・。

(私は変態だ、女の子しか好きになれないなんてっ)

しかも初恋が姉というのは悲しすぎるじゃないか?

ハナビは溜息を零し、机にうつ伏した。

と、優しい気配が近付いて、ハナビは思わず身構える。 

「ハ、ハナビちゃん、ちょっと・・・いいかな?」

「・・・どうぞ・・・」

からりと襖が開いてヒナタがもじもじしながら入ってくる。何を妹に

恥らっているのかと忌々しくそんな姉を睨んでいたが。しかしヒナタが

優しく微笑む顔を見てしまうと頬が緩んでしまう。それが腹立たしい。

「なっ、なんですかっ!」

苛立ち突き放すように言い放つと、ヒナタが、それに臆すること

なく微笑みながら何か差し出してきた。

「あ、あのねっ、ハナビは大好きな妹だからっ・・作っちゃったの・・・」

「え?」

可愛い包装に包まれた小箱はネジのものより大きかった。

そうして戸惑いつつ箱を開けば中からはハナビの好きな

バナナケーキにチョコクリームでメッセージが飾られている。

『可愛い大好きなハナビへ』

ぐっとハナビは目頭が熱くなった。

昨夜ネジのケーキに悪戯したときには見当たらなかったこれは

まだ少しあたたかい。わざわざヒナタが今日、焼いてくれたらしかった。

「姉さん・・・あの・・・」

「夕飯食べれなくなっちゃうから・・・明日でも食べれるから・・・ね?」

優しい眼差しにハナビは思わずヒナタへと抱きついていた。

「ハ、ハナビちゃん?」

ヒナタの柔らかい胸に顔を埋め甘えるように頬を摺り寄せ、

ハナビは感情を吐露してしまっていた。

「姉さん、姉さん、お嫁になんか行かないでっ!」

「・・・ハナビちゃん・・・」



――どうか、このままずっと傍にいて?――



それは叶わぬ願いであったけれども、ハナビはなきじゃくって

つよくそれを望み続けた。報われなくてもいいから、せめてずっと、

家族であって欲しい・・・。あいつの元へなんか行かないで欲しい。

「ごめんね・・・ハナビちゃん、寂しかったんだね?で、でも大丈夫だからね?

お姉ちゃんは離れてもずっとハナビちゃんを愛してるよ、だ、だって

私はハナビちゃんのお母さんになるって決めたんだからっ」

そこでハナビの脳裏にあの日の情景が浮かんだ。




幼かったあの日、優しかった母が病で死んで。

幼すぎて理解できない自分を姉のヒナタが抱き締めてくれた。

(大丈夫、大丈夫だからね?ハナビちゃんにはお姉ちゃんがいるからねっ)

そう言って泣きじゃくるヒナタの方が大丈夫じゃないではないか、

と酷く冷めた目で見詰めながら・・・。

それでもこの暖かい人を守らねばと、強く決心し、小さな手でしっかりと

抱き締めていた。

(ああ、あれが原点だったんだ、姉さんへの恋心の・・・)




健気な姉が愛しくて・・・父に厳しくされる姿を見るたびに自分がこの人を

宗家の重責から解放しようと頑張ってきた。

そうして自分が宗主になったら優しい姉と仲良くいつまでも暮らせると夢想しながら。

だが結局、それがヒナタを追いつめ、宗家から追いやるという皮肉な

結果になってしまった。一族は嫡子を優秀なハナビに決め、ヒナタを

分家頭領のネジへと降嫁させると決めてしまい、二人を早々に婚約

させてしまった。

不本意だがハナビにはどうしようもなく、あと3年もすれば

正式にヒナタはネジのものになるのだ。


(こんな事のために頑張ったんじゃないのに!)


子供過ぎた自分がくやしくてハナビはわぁわぁと泣き続けた。

ヒナタを失う悲しみに、ハナビだけのものだったヒナタを

奪ったネジに対する怒りに、声を上げて泣いた。

泣いて、泣いて、泣き続ける間もヒナタは黙ってハナビの想いを

受け止めるように抱き締めてくれている。

その抱擁に、苦しかった感情も溶かされていく気がした。

ひとしきり、ヒナタにしがみつき、泣くだけ泣いたら少しは気が和らいだ。

そうだ、報われない思いも、この血の絆を断つことは出来ない。

ヒナタは自分を妹として深く愛してくれているのだから・・・。

だから自分も本当にヒナタを愛するのなら、妹として――。



「・・・ハナビちゃん、そろそろ行こうか、父上もお待ちだし・・・」

優しくハナビの髪を梳きながらヒナタが抱き締めてくれた。

「そう、だね・・・それに今夜はあいつも来るんでしょう?」

「ん・・・?」

「ネコ兄さん・・・」

「ハッ、ハナビッ?!ま、まさか、あっ、あれはっ・・・!」

慌てるヒナタから、名残惜しいが素早く身を離し、ハナビは

チロリと舌を出す。

「まだまだ認めたくないから、また悪戯させてもらうよっ!」

そう、子供らしく笑いながら振り向けば、安心したように苦笑するヒナタの姿。

・・・これでいいんだ、とハナビは目を細める。

そうして苦い初恋に幕を閉じようとハナビは決意するのだった。








 ☆ 88888hitキリバン踏んでくださったアヤコ様リクエストで
    ネジヒナ+ハナビで小説でした。
    ネジとヒナタで、と思ったのですがそうなると裏仕様に
    なっちゃうのでこれでv
    季節柄バレンタインネタ混ぜましたが生かしきれてない
    ような・・・でも頑張りました。
    少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。(2006/1/24UP)
  
                             
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