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落ち零れネジ
ヒナタは日向一族きっての天才だ。日向流を12歳で極め、嫡子として誰からも認められている。
能ある鷹は爪を隠すで、彼女は偉ぶる事もなく穏やかで慈悲に満ちていた。 誰からも好かれ、容姿も愛らしく申し分ない。アカデミーではいつも人気NO1であった。 そんなヒナタに憧れる少年は星の数ほどで。 女子から圧倒的人気を誇るうずまきナルトもそんな一人であった。 「よう、ヒナタってば、話があるんだけど、今いいか?」 これがほかの女子であったら飛び上がって喜ぶところだが、ヒナタは至極ふつうに返事をした。 「ごめんね、私、約束があるの。」 「って・・約束?誰とだってばよ?」 「従兄のネジ兄さんと」 ナルトは目を瞠った。何故ならヒナタの従兄の日向ネジは一族始まって以来の落ちこぼれなのである。 「お前ってば、あんな落ちこぼれと付き合ってんのかよ?」 ナルトの言葉にヒナタはむっとした。彼女はネジが大好きなのである。 「ネジ兄さんは落ちこぼれなんかじゃないもん!!」 真っ赤になって怒るヒナタにナルトはたじたじだ。焦りながらも謝る。素直な少年なのだ。 「ごめんってば!俺、思い上がっていたってばよ。」 「ううん、私こそ怒鳴ったりしてごめんなさい。はずかしいわ・・・」 モジモジと俯くヒナタにナルトが可愛いとか思っていると校庭から熱い声が聞こえてきた。 「馬鹿野郎!!ネジ、お前また落第したいのか?リーを見習え!!」 「ちっ」 暑苦しい顔をした教師にすらりと線のほそい長髪の少年日向ネジが舌打ちした。 「ネジ、君は僕には決して勝てませんよ?僕は天才ですから!!」 濃い眉におかっぱの少年がガッツポーズでネジに向かって叫んだ。ますますネジは口を曲げる。 「下らん・・・・こんなのが何になるんだ?」 そういってネジは手にしたちいさな花を忌々しげに睨んだ。 「だからお前はだめなんだ!!いいか、この里の名前はなんだ?言ってみろ!」 「押し花の里です。」 ネジに代わって元気よくリーが叫んだ。うんうんと熱血教師ガイは満足そうに頷いた。 そう、ここでは戦う力など誰も求めない。 花を愛し育てそして押し花という芸術を極める者が求められるのだ。 「そういうわけで、ネジ、お前ほど植物を枯らす奴はいないぞ?それでも日向一族か?」 「・・・・・・」 ネジはむすっと黙り込んだ。彼とて好きで枯らしている訳じゃない。勝手に枯れてしまうのだ。 「お前の従妹は天才なのになぁ。」 ガイの言葉にネジは酷く傷ついたのであった。顔には決して出しはしなかったが・・・・。 「ネジ兄さんは落ちこぼれなんかじゃありません!立派な方です!」 温和なヒナタの怒りの声にガイはびびった。 ネジに熱く指導をしていると音もなく彼女が現れ、烈火のごとくガイに食いかかってきたのだ。もう猛烈に。 「ヒ・・ヒナタ君、落ち着いて?俺は別にネジを苛めている訳じゃぁ・・・」 ヒナタに押され仰け反るガイをリーが背後で支える。 しかしヒナタの勢いにリーまで気圧され仰け反り気味。 「ヒナタ様、止せ!」 苦虫を潰した様な顔でネジは叫んだ。思いっきり不機嫌さを増している様子。 「で、でも、ネジ兄さん・・・。」 「・・俺をこれ以上、惨めにさせるな・・・。」 ドスの聞いたその低い声にヒナタはびくりと肩を竦めた。ほ〜っとガイとリーが崩れ落ちた。 「ごめんなさいっ・・!き・・嫌いにならないで?わ、わたしはあなたのことが・・・・。」 だがネジは手でそれを制した。ヒナタは口を噤み俯いてしまう。 「ヒナタ様、俺は落ちこぼれなんだ。貴女には相応しくない・・・。」 淋しそうにそういい残しネジはその場を立ち去った。 「くそっ!!どうして枯れるんだ?」 ネジは手の中で萎びる花だったものにイライラと叫んでいた。ドライフラワー以前に、腐ってしまうのだ。 「俺から毒でも出てるとでもいうのか?こんちくしょうっ!!」 バシィッと地面に叩きつけネジは目を閉じる。訳が分からない。 押し花作りの名門日向一族なのに彼には余りにも才能がなかった。 と、いうより妙な体質のせいで作れないのだが。 生来プライドの高い彼にとって押し花を作れず一般市民として生きていくのは耐えられない。 『一楽で店員を募集していたぞ・・・。』 先日、一族の宗主ヒアシに言われた言葉が脳裏をよぎった。ラーメン屋にでも行けと暗に言われたのだ。 「くそっ!!ほかの事はなんでもこなせるのに、どうしてこんな事でこの俺がっ!!」 顔良し、頭良し、スポーツ万能、けんかだってめちゃくちゃ強い。普通ならモテまくるはずなのだ。 ラーメン屋でどんぶり洗っているような男じゃないのだ。 なのに、押し花を作れないというだけで、 (・・・例え用意された素材で挑んでもぼろぼろになって作れない・・) 愛するヒナタ様にも顔向けが出来ないでいる。 (女のあの方に庇われ、告白させるなど、男としてあまりにも惨めじゃないか!!) 苦悩して思わず蹲るネジの足元にひらりと一枚の紙切れが飛んできた。 「?」 なにかとネジはそれを手に取り紙面に目を落とした。 『 体質改善!!あなたもこれで新しい人生をレッツエンジョイ!! 当メディカルでは あらゆるアレルギー、その他不愉快な体質にお悩みのアナタに適切な指導と治療を施します。 まずはお気軽にどうぞ!! 』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 ネジは更に読み進んだ。 『 あなたにより良い人生を!! 大蛇堂 : 院長 大蛇丸 』 「行ってみるか・・・。」 ネジはその紙を握り締め、走り出したのだった 「も・・もういいか?」 ネジは肩で荒く乱れる呼吸を整えた。もうへとへとだった。何回踊った事だろう? 大蛇堂に来るなり、院長の大蛇丸に踊りなさい!といきなり言われ、かれこれ2時間ネジは踊っていた。 どじょうすくい・・・・。鼻にささった割り箸がネジの端整な面影をぶちこわしていた。 (ほ・・本当にこんなことで俺の体質が変わるのか?) 「う〜ん、まだ、自分を捨てきれていないわねぇ・・・。 無我の境地にならないと、あたしの呪印刻めないのよねぇ。」 おどろしい顔を歪めるおかま・・もとい大蛇丸が大きく溜息を吐いた。 「ねえ、あなた・・・もっと自分を解放しなさい!まだ羞恥心が残っているのよ!そんなんじゃ駄目よ!」 ぶちっ!!ネジの堪忍袋の緒が切れた。 頭にまいた泥棒風チーフと、鼻にささった割り箸を思いっきりむしり取り、大蛇丸に投げつける。 あらっといいながら上手によける奴が忌々しい!ネジは怒声をあびせた。 「やってられるかぁぁぁ!!!貴様!!俺をなめてるのかっ!!」 「はいはい、もう10回そのセリフ聞いたけど、なめてないって何度言ったらわかるのかしら?」 そして何度怒声を大蛇丸にはいても、ネジは最後にはしぶしぶという事を聞くのだった。アホだ。 心中大蛇丸はそう笑いながらこの面白いおもちゃで遊んでいたのだがそろそろエステの時間だ。 切り上げねば。 「残念ねぇ。あたし、用事があるのよ。後は助手にまかせるわ。 彼の言う事聞いてれば大丈夫。あたしより優秀。」 「んだとっ?最初ッからそいつをよこせば良かったではないか!!」 憤るネジを置き去りに大蛇丸はホホホッと高笑いしながら診察部屋を出て行った。 入れ替わりに男が現れた。 「やあ。大蛇丸様の助手、薬師カブトだよ。君があの有名なおちこぼれ・・日向ネジ君だね?」 「・・・ああ。そういう訳だから、さっさっと治療しろ!この忌々しい体質さえなくなれば俺は変われるんだ!!」 凄むネジにカブトは眼鏡越しに目を細める。そして、哀れむような表情を浮かべた。 「君、知らないの?」 「何がだ?」 ふう、とカブトは溜息を吐くと、白衣の胸ポケットから一枚の写真を取り出した。 その写真にネジは目をむいた。 「なっ!!」 それに写っていたのは、ネジの愛しいヒナタ様。しかも、み、水着?なんにしても刺激的!! ネジは思わず蹲った。思わず鼻をおさえたが、指の間から鼻血が大量放出する。貧血になりそうな程だ。 「きっ、貴様、ヒナタ様のそんな淫らな写真を一体どこで?」 興奮しながらネジはカブトに詰め寄った。鼻血がほとばしりカブトの白衣につきそうになる。 だが、カブトは素早くティッシュをネジの鼻の穴に詰め込むと余裕たっぷりに微笑んだ。 「ははっ。これ、合成写真だよ。ネジ君は純情だね。」 「うるさいっ!それで?これに何の意味があるのだ?」 「ふふっ。ネジ君、君はね・・・この里の英雄なんだよ?」 はあ?ネジは盛大に驚いた。そして呆けた。なんの脈絡もなく何を言い出すのか薬師カブト! 「お前が何を言いたいのかさっぱりわからん。」 「ネジ君、今興奮した君のへその周りをみてごらん?なんか浮かんでいるだろう?」 言われてネジは服をたくし上げた。カブトの指摘通りそこには渦巻き状の紋様が浮かんでいた。 「なっ、なんだ?これはっ・・・・!!」 驚愕するネジにカブトは静かに言った。 「君の中には伝説の妖怪、九尾が封印されているんだよ。」 ネジは言葉を失った。 「なっ?!九尾?!九尾とはなんだ!!」 ネジはへそに浮かび上がった紋様に手をかけながら叫んだ。 「丁度13年前、押し花の里を襲った妖怪だよ。」 薬師カブトは語り出した。 「四代目火影がたまたま生まれたばかりの君のへそに九尾を封印したんだ。」 「たまたまだとっ?!」 「そう、たまたま。まあ、運が悪・・いや、君は英雄に選ばれたわけだ。」 (今、運が悪いって言いかけなかったか?) 「・・・納得いかんな。なぜ俺なのだ?何か隠してないか?」 さっきの大蛇丸のせいで疑い深いネジ。でも結局騙されっぱなしなのだが。 「別に?で、君は九尾のせいで植物に毒を吐く体質になったという訳なんだよ。」 お分かり?といった仕草でカブトはネジを見た。なんかムカつく。 「おい、お前、九尾についてまだ何も説明してないが?」 「ああ、そうだっけ?」 「とぼけるな!フン、だがまあいい。九尾とはあの有名な妖狐であろう?俺もそう馬鹿じゃない。」 それくらい知ってるんだぞ?と、鼻高々のネジにカブトは事も無げに吐くように言った。 「いや馬鹿だ。」 「なにいぃぃっ!!!!」 ガーッと、怒り心頭のネジをあしらいつつカブトは説明を始める。 「ネジ君、九尾とはだね、九つの尾を持つ、」 「尾を持つ?」 ごくりと唾を飲むネジ。緊張感が漂う。それをカブトが引き裂いた。 「ガマガエルだ!」 「なっ!!」 「名をガマブンタという。」 (名前なんぞどうでもいいっ!!なんだって?ガマガエルだとぅ?!) ビジュアル的になんか嫌っ!!サーッとネジの血の気が引いた。 そんなネジを哀れみ半分面白さ半分でカブトが言った。 「実は四代目が大のカエル料理好きでね。どこからか捕まえてきたガマブンタをフライパンで 素揚げにしようと油にいれたら、巨大化しちゃって・・・。暴れるわ、油飛ばすわ、毒吐くわで、 そらもう里は大騒ぎさぁ。」 (く・・食う気だったのか?四代目!!) 余りのアホさ加減にネジは声を失ってしまう。そこへ畳み掛けるようなカブトの証言話がつらつらと! 「で、困った四代目に日向のヒアシ様が君を、博打の付け代わりにっと、いやいや、失言。」 「!!!まてっ!!今、博打の付けとか聞こえたが?!」 やっちゃたぁとかいった仕草でカブトが舌を出した。でも全然しまったとか思ってなかったりして。 「いやぁ、実はね、ヒアシ様は四代目とそらもう毎日のようにチンチロリンで遊んでてねぇ。」 (チ、チンチロリン?なんだっ?!チンチロリンって!!) そんな訳の分からぬもののせいで自分は捧げ者にされたのか? 「で、溜まりに溜まった付けの代償に、分家のくせに宗家の嫡子より先に生まれて めざわりだった男児の君に白羽の矢が立ち、ガマブンタの封印の笑い者、いやいや、 入れ物にされたという訳だ。」 「そういう事かっ!!」(ヒアシの野郎・・・・・!!!) ぎりっと唇を噛むネジ。その端整な顔にはメラメラと怒りの炎が燃えていた。 「ネジ君、そういう訳で君の封印を解こうという物好きは誰もいないんだよ。もちろん当メディカルでも 無理だ。諦めてもらうしかないんだよ。」 「なんだと?!ではおれは一生このまま・・・」 ガマガエルと一緒?!ネジの頭の中を何万ものガマガエルが、どすこいどすこい飛び跳ねる。 ギタギタにギトギトにガマ油たらして毒吐いて、ネジのへそのごまからも油絞りそうな妖怪が一生・・!!! 「ぐがああああああ!!そんな人生いやじゃあああああああ!!!」 押し花どころの話ではない!!こんなガマを飼ってるような男、例え絶世の美男子でもヒナタ様に 嫌われてしまうに違いない!! 絶叫し、号泣するネジにカブトはハンカチでそっと涙を拭った。笑いすぎて・・・。 さてそれから暫くして場面は変わり・・・。 「ひっ、卑怯です!」 ヒナタは今窮地に落とされていた。 押し花作りNO1を決める大会。 押し花の里代表のヒナタに対し、ライバル砂のテマリが裏工作を仕掛けたのだ。 ヒナタの作品はボロボロで審査員の各国の大名は渋面をした。 「今年はやはり砂が優勝かのう・・。」 「押し花の里は失格ですな。我々は支援を打ち切るようですな。」 押し花の里の危機である! (ああっ!こんなときネジ兄さんがいてくれたら!!) いや、いても役に立たないのだがヒナタは恋する彼を思い浮かべていた。 3年前、いきなり失踪した日向ネジを。 項垂れ絶望に蹲るヒナタに審査員の大名達が無情の言葉をかけようとしたその刹那! 「あいや暫く!!」 凛と良く通る声が会場中に響き渡る。何事かと一斉に皆声のする方へ目を向けた。 そこには! 「ヒナタ様。あなたのネジが戻ってまいりました。あなたに相応しい男となって。」 「ネジ兄さん!」 思わず涙ぐむヒナタに一瞥し、ネジは勢い良く空に舞った。 「見よ!!紙吹雪の舞!!」 おおっ!!と会場中がどよめいた。ネジが華麗に空に舞いながら巨大なキャンパスに 無数の色とりどりの紙吹雪を貼り巡らせて行く。 あっという間にそこには壮大な芸術作品が仕上がっていた。 ちぎり絵・・・・・。 おにぎりもったあの裸の大将をも凌ぐネジの力作に会場中が大喝采を浴びせる。 「ブラボオオオオオオ!!ブラボオオオオオオ!」 「フッ、まだまだあるぞ?」 そう言うや否やネジは無数のハサミを口寄せし、巨大な紙を切り刻んでゆく。 「はいっ!!」 掛け声と共に巨大な額に納められたのは・・・!! 切り絵・・・・。 「ブラボオオオオオオ!!ブラボオオオオオオ!」 会場中がネジの華麗な芸術に拍手喝さいの嵐を巻き起こしていた。 戦い済んで日が暮れて。 ネジは皆に囲まれ賛辞を受けていた。 「おまえってばおちこぼれなんかじゃないってばよ!!見直したぜネジ!!」byナルト。 「ネジ!僕は猛烈に感動してます!!君は僕らの誇りです!!」byリー。 「かあああ!!紙ときたかっ!!ネジ、よくやったぞっ!熱く抱擁してやるぞっ!」byガイ。 「いや、暑苦しいからいい!!」byネジ。 そしてそしてネジの元に歩み寄るのは、愛しのヒナタ様。 「ネジ兄さん・・・。お帰りなさい。お待ちしておりました・・。」 「ヒナタ様・・・・。」 見詰め合う二人を夕日が赤く染めていた。 ナルト達はお互いめくばせし、そっとその場から立ち去った。 二人だけになったアカデミーの校舎の渡り廊下。 二人の影が重なってゆく。 「ヒナタ様・・。愛しています・・。」 「嬉しい・・・。」 こうして新しい芸術を極めたネジはおちこぼれから脱却し、愛しのヒナタ様と結婚したのだった。 だが。 後日ネジに隠居を薦められ、一楽で泣きながらどんぶりを洗うヒアシの姿と、 そして美容にいいと薦められたガマの油で吹き出物だらけになって絶叫する大蛇丸の姿が。 ・・・・・ネジは執念深い男なのであった。 (完)
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