ネジBD 前編

        


  「もうすぐネジの誕生日ね。」

  同班のテンテンが話しかけてきた。任務が早く終わったため通例どおり修行をみんなでしている。

  ネジとしては早く家に帰りたかったが、修行に厳しいガイは認めてくれなかった。

  なので渋々定時まで付き合っていたところに彼女が話しかけてきたのだ。

  「ヒナタちゃん、お祝いしてくれるんでしょうねえ、盛大に!」

  にやにやとからかうように笑うテンテンにネジは嫌そうに顔をしかめた。

  「・・・お前には関係のない事だ・・」

  「ああら、そんな口私に聞いていいのかしら?」

  「・・・・・・くっ!」

  勝ち誇ったように微笑する、この暗器使いのチームメイトが腹立たしくて思わずネジはそっぽを向いていた。

  「賭けは私の勝ちだったもんねえ〜!」




  かつてヒナタを憎悪していたネジにテンテンは指摘してきた事があった。

  その内容は、ネジが本当はヒナタに惚れているというもので・・。

  『ふざけるな!なんでこのオレがあんな宗家の落ちこぼれに惚れなければならないんだ?!』

  激昂し頬を上気させるネジをみて、テンテンは確信した。やはりネジはヒナタに惚れているのだと。

  普段冷静なネジが唯一感情を乱すきっかけはいつだってヒナタ絡みのものばかりで。

  憎悪の対象である宗家だからかといえば、そうでもない。何故なら他の宗家にはここまで反応しない―。

  『ネジィー、やっぱ、あんた、惚れてるわよー!気付かないの?』

  『馬鹿なっ!そんなことは在り得ない!!死んでもだ!』

  『じゃあさ、想像してみてよ、もしあんたとヒナタちゃんが恋人になったら?嬉しいんじゃない?』

  『在り得ん!考えるだけで虫唾が走る!』

  『じゃあさ、結婚してHしちゃうとか、想像してみなよ?ね?嬉しいでしょ?』

  『っ・・!!』

  『ほら〜、そんなに赤くなっちゃってさあ。やっぱ惚れているって!』

  『・・・分かった、そこまで言うのなら・・・賭けてもいい、俺は一生ヒナタ様など好きにはならない。

   あんな落ちこぼれ、誰が相手にするものかっ!』

  ネジが賭ける事自体珍しいのだから、やはりかなり動揺しているのだろう。

  いつもの取り澄ましたポーカーフェイスもかなり崩れていた。

  (全く・・・素直になりゃあいいのに・・・)

  だが、面白いのでテンテンは賭けにのる事にした。

  『で、何を賭けるの?ネジ!』

  ジロリとネジがテンテンを物凄い目で睨みつけてきた。

  だが頬が上気したままのネジはいつもの威圧感も何もなく、思わずテンテンは吹き出してしまう。

  『くっ・・あはははっ!なに?まだ照れてんの〜。ネジ、あんた一体どんな妄想したのよー!』

  『だっ・・だまれ!!いいか、もしオレが万が一、いや億万に一でもあの落ちこぼれを相手にしたら、

    その時はお前の言い分を認めて何でも言う事を聞いてやろう!』

  『えー、いいのお?無制限に言う事聞くことになるわよ〜?』

  『かまわん!どうせ在り得ないことなのだからな!』

  『じゃあ、私の指摘が間違っていたときは?』

  『二度とオレに干渉するな!』

  『なんか、私に有利な賭けねえ。でもそれじゃあ可哀想だから、あんたが負けたときは三回だけ

   何でも言う事聞いてもらうことにするわ!』

  『はっ。なんとでも好きにしたらいい。馬鹿馬鹿しい。』

  鼻でせせら笑うネジであったが、・・・・結局、賭けはテンテンが勝ったのだった・・・・・。




  ( 後悔先に立たずとはこの事だ・・!)

  すっかり忘れていた賭けだが、最近になってテンテンが切り出してきたので思い出してしまった。

  過去自分が頑なにヒナタを拒否してきた事まで。

  ( なんてオレは馬鹿だったんだ?忌々しい位だな・・・)

  だが今更もう遅い。

  賭けを反故にするほどネジはズルイ人間ではなかったし、またそれを許すテンテンでもなかった。

  「ねえ、ネジ!三回、なんでも言う事きいてくれるのよねえ?」

  「・・・ああ、男に二言はない。賭けはオレの完全な負けだったしな。」

  半ば諦めたように目を伏せるネジにテンテンはニヤニヤと楽しそうに笑う。

  テンテンはネジの弱味をいち早く見出した切れ者だ。ネジの唯一の弱点がヒナタであると。

  それはネジがヒナタへの恋心を自覚するずっと前からで、ある意味彼女の洞察眼は白眼をもつネジより

  優れているのかもしれなかった。

  「私はネジがヒナタちゃんを蔑みながらも慕っていた事を知っていたからねえ。

    ネジの願いがかなった今の状態が仲間としても嬉しいわけよ。」

  「ふうん・・(信じられんな)」

  「だから、仲間としてあんたの幸せを盛大に祝ってやりたいわけ!」

  「なんだって?」

  「あんたのお誕生日パーティで新婚さんをひやかしつつ・・いえ、心から祝ってあげたいの!」

  「・・・今、ひやかすとか聞こえたが?」

  「空耳よ!新婚ほやほやのあんたとヒナタちゃんを祝福しにいくから、逃げんじゃないわよ?」

  「・・・・それだけか?」

  なんだか嫌な予感がして思わずネジはテンテンに聞いていた。

  ひやかすだけで済むのか?そんなタマではないはずだ、このチームメイトは。

  それに、賭けの話はどこに消えたのだ?ネジが訝しげにテンテンの様子を伺っていると・・。

  「実は、七班も呼ぶのよ!」

  「!!!!」

  「あんたも知っている通り、私はリーが好きなんだけど、リーは相変わらずサクラちゃんでしょう?

   だから、リーが彼女を諦めるようにあんたには協力して欲しいわけ!つまり、ナルト君とサクラちゃんを

   リーの目の前でくっつけて欲しいのよ〜。」

  「なるほど、オレの誕生日は皆をあつめる口実というわけか。これで二つだな?」

  「そ、口実の提供と、私の恋を成就させる事!」

  (まあ、いいだろう。だが・・・ヒナタにナルトを会わせるのは・・・・)

  ヒナタはナルトに憧れていた。それが腹立たしくて中忍試験ではヒナタを殺しそうになったほどだった。

  当時は無自覚だったが、今にして思えばあれは完全な嫉妬だった。

  それほど、ネジはヒナタに執着し恋焦がれていたという事になるのだろうが。

  「・・・・ヒナタのいない場で別に機会をもうけないか?」

  思わずネジはそう提案していた。

  やはり今でもヒナタとナルトが関わるのは面白くない。出来るなら会わせたくなかった。

  「あらあ、ごめんねえ!でも場所提供とパーティの用意とか、もうヒナタちゃんに頼んじゃったのよ!」

  「なに?!ヒナタに頼んだだって?」

  「そうよ、善は急げというでしょう?」

  「お前、オレに断りもなく、ヒナタに関わるなど!」

  「そう怒んないでよ〜。それにさあ、一石二鳥なのよ?ナルト君とサクラちゃんをくっつければ、

   アンタの大事な奥様も淡い憧れから完全に卒業するじゃな〜い?」

  「!!!!!」

  「感謝しなさいよ〜。半分はアンタにとってためになるわけなんだしさ!」

  「・・・そうか・・・。そう言われればそうだな・・・。」

  もちろん、ヒナタは今では完全にネジのものだ。

  だが・・・彼女がナルトに対して未だに憧れを抱いている事には薄々気付いていた。

  面白くはなかったが、そこまで束縛するのはさすがに気が引けて何も言わずにきたが、

  これはいい機会になるのかもしれない。

  ヒナタの心が完全に自分だけで占められたら・・・・。考えただけでゾクゾクとした。

  「じゃ、そういうことだから!任務なんていれないでよ〜?私も根回しはしておくからね!」

  ゆらゆらと右手を振りながら立ち去る彼女を横目で眺めながら、テンテンの策士ぶりなら大丈夫だろうと

  ネジは確信する。余程のことがない限り、ネジの誕生日パーティは行われるだろう。

  (しかし・・誕生日パーティだと?)

  そんなものは生まれて初めてだ。人に祝われるなど今までの人生で皆無だったようなきがする。

  いや・・・・。一度だけ、あったか。

  一度だけ・・・ヒナタがアカデミーの帰り道、ネジへ誕生日だからと贈り物を手渡した事がある。

  『ネ、ネジ兄さん・・お誕生日おめでとう・・・』

  はにかみながら渡されたそれは水色の箱に銀色のリボンがかけられていた。

  『・・・・これは、あなたからですか?それとも宗家からですか?』

  『あ、・・あの・・・わ、私・・からなの・・・』

  『そう、ですか。なら、いりません。これはお返しします。』

  『え・・?』

  驚くヒナタに馬鹿にしたような口調でかえした。冷たい眼差しをむけると、彼女は小さく震えた。

  それが心地よくて堪らなかった。

  『いらない。あなたのような落ちこぼれから何も受け取りたくなどない。』

  見開かれた大きな瞳に涙が浮かぶ。それに微かに胸が痛んだがネジはその感情をむりやりかき消した。

  『あなたは宗家の出来損ないだ。オレにとってはめざわりでしかない。消えてくれないか?』

  傷ついたヒナタの泣き顔に、ネジ自身傷つきながらも、それを認めようとはしなかった。

  あくまで憎悪の対象。それだけだと己に言い聞かせる。

  ヒナタが力なく項垂れ遠ざかり、途中転んで・・・小さくすすり泣いていた。

  思わず駆け寄り手を差し伸べたくなる衝動を抑え、ネジは踵をかえしたのだった。

  それからは・・・・ヒナタからネジに関わる事などなかった。あの日、二人の結婚が決まる日までは・・・。

  (・・・・ヒナタ・・・)

  どうしてこんな自分を彼女は愛してくれたのだろう?

  天才だからとか他人より優れているからとか外見や容姿で彼女は人を量らない。

  まだ誰からも見向きをされなかったナルトの内面に惹かれ憧れた彼女は・・・見る目のある人間だ。

  (ヒナタに選ばれたということは、俺にも誇れる内面の強さがあるのだろうか?)

  それならば嬉しいとネジは素直に思った。

  それから・・・・。




  「お、お帰りなさい」

  「ああ。」

  家に帰るといつもの様にヒナタが出迎えてくれた。愛らしい微笑みにいつも癒される気がする。

  「今日はネジ兄さんの好きなもの、沢山用意したの・・・」

  また、あのはにかむような仕草。彼女は昔とあまり変わらない。

  ・・・優しくて純粋で・・・他人を思いやれる暖かさがあって・・。

  あんなにヒナタを傷つけたネジへ唯一誕生日プレゼントをくれようとまでした優しい少女。

  今では妻として自分を愛し良く尽くしてくれている。

  「・・・・ヒナタ、話しがあるんだが・・・。」

  「なあに?」

  ネジの茶碗にご飯をよそいながらヒナタが返事をする。ネジは少しためらいつつも、箸を置いたまま口を開いた。

  「いつだったか・・・オレに誕生日プレゼント・・・くれようとしたが・・。」

  ネジが気まずそうに話しを切り出すと、ヒナタは目を大きく見開き驚いていた。

  その反応に今更蒸し返す自分に呆れながらも覚悟してネジは話を続けた。

  「あの時は・・・本当にすまなかった。いや・・その、今まで随分とあなたを傷つけてきたが、

    きちんと謝った事がなかったから・・」

  我ながら歯切れが悪いと思いつつも何とか言いたいことは口に出来た。

  つまり、ネジはヒナタにちゃんと謝りたかったわけで・・。

  よくよく考えれば自分という人間は他人に謝ったことなど、今までなかったような気がする。

  というか、皆無ではないだろうか?

  (つくづくオレは駄目な男だな・・)

  だが、そんな自分を反省しながらもネジは、それ以上の事は生来のプライドが邪魔をして何も言えなかった。

  すまなかったの一言で済まされるような過去ではないのだが、いかんせん体が言う事を聞いてくれない。

  ネジは戸惑いながらヒナタを見詰めた。

  彼女はただ、呆然としている。呆気にとられて心ここにあらずという感じであった。

  「ヒナタ?」

  やはり、今更昔の事等蒸し返すのではなかったか、とネジは少し後悔した。

  だがあの日の光景が甦り申し訳なさで居た堪れなかったのだ。

  優しいあの手を拒否してしまった事に。酷く傷つけたことに。全てに謝りたくて仕方がなかったのだ。

  「・・・今更だが・・オレは、本当はずっと、」

  「うれしい、ネジ兄さんっ」

  「え?」

  次の瞬間にはヒナタが抱き付いて来ていた。柔らかい肢体がネジを蕩かす様にしがみ付いてくる。

  その感触にうろたえながら、ネジはヒナタの顔を覗き込んだ。

  己が胸に身体を預け涙ぐむ新妻にネジは思わず息を呑む。と同時にヒナタが泣きながら言った。

  「うれしいのっ・・・。兄さんが・・謝ってくれるなんて・・」

  ( ヒナ・・タ・・・!)

  悪いのは自分なのに、謝るのは当然なのに、それを感謝されてしまい、ネジは面食らってしまう。

  しかも謝罪に感謝するヒナタの反応から普段のネジを彼女がどんな風に捉えているのか考えたくもなかった。

  ( やはり、オレは最低だな・・・)
 
  内心酷く落ち込みながらも顔には一切出さずにネジはヒナタを優しく抱き締め返した。

  甘い香りがヒナタの藍色に艶めく髪から漂いネジを酔わせてくれる。

  「兄さんが・・あの日の事を、謝ってくれるなんて・・・思いもしなかったからっ」

  「・・ああ、あの頃はオレも素直じゃなくて・・・。本当は嬉しかったのに、あんな態度をとってしまったんだ・・・。」

  そうだ、本当は嬉しかったんだ、宗家ではなく、ヒナタ本人が自分を祝おうとしてくれた事が。

  「ヒナタ・・・ありがとう。」

  「え?」

  「あなただけが、闇に堕ちていたオレに近づき手を差し伸べてくれた・・・。
 
   誰もがオレを恐れて近づきもしなかったのに。」

  よりにもよって一番傷つけていたヒナタだけがネジへ歩み寄ろうとしてくれたのだ。本当は怖かっただろうに。

  優しい抱擁を少し熱をこめて強くする。ヒナタが欲しくて堪らなくなった。

  「ご・・ご飯さめちゃうよ?」

  困ったようにヒナタがネジの腕の中で身じろぐ。だが、ネジはその手を緩めようとはしなかった。

  「ネ・・ネジ兄さん?」

  「好きだ。あなたが何よりも愛しくてたまらないんだ・・・!」

  激情をもってネジは愛しいヒナタを抱き締め、それから、情熱的にヒナタの唇を求めたのだった。




  「・・・・にいさん、そういえば今日テンテンさんから電話があったの・・。」

  ネジに腕枕されながらヒナタが甘えるように囁いた。そうしてネジの逞しい胸にそっと手を添えて来る。

  「に・・兄さんのお誕生日をみんなでお祝いしようって・・。わ、私すごくうれしくてっ・・・!」

  頬を染めて瞳を潤ませながら、感無量といった風にヒナタが声を震わす。

  それはまるで出来の悪い息子に友達が出来て喜ぶ母親のようで・・・ネジは思わず苦笑していた。

  「オレはそんなに皆から敬遠されているように見えるのか?」

  「そっ・・・そんなことはっ・・・!」

  焦るヒナタの顔はいつだって正直だ。だが、ネジ自身そう思っていたので特に傷つくこともなかった。

  「それより、準備とか大変だろう?一人で大丈夫なのか?」

  確か前日まで皆任務で忙しいはずだ。テンテンの根回しのしわ寄せがきた結果だ。

  「だ、大丈夫だよ?私は忍びを辞めて暇なんだし・・・。かえって嬉しい位なのっ」

  そこでネジは気が付いた。結婚して半年経つが、ヒナタはいつも家で愛猫のユキと過ごしていて・・。

  上忍で長期の任務が多く、不在がちの夫に寂しい思いをしていた筈だ。

  友人は皆任務で忙しく、妹は宗主の修行で多忙、ヒナタは家庭に入ってから余り人と交流がない。

  「・・・・楽しいパーティになるといいな?」

  優しくヒナタの髪を撫でながらネジは心からそう思った。自分の為などではなくて、ヒナタの為になればいいと。

  だが、そんな優しい思いやりも次の瞬間には消え去っていた。そう、ヒナタの何気ない一言で。

  「ナ、ナルト君に会えると思うと・・とても励みになるからっ・・・頑張れるの・・・・!」

  「!!!」

  「そ、それに、キバ君もシノ君もお祝いに来てくれるって・・!テンテンさんが・・教えてくれたし・・・!」

  やはり、ただでは済まさないであろうとは思っていたが、よりにもよって、8班を呼ぶなんて!!

  ヒナタに懸想していた奴らだ、未だに好かないキバとシノを思い浮かべるだけでネジは歯噛みしたくなる。

  (テンテンめ!覚えていろよ?)

  だが、それ以上にネジの心を掻き乱したのはヒナタのナルトを思い浮かべているその表情で・・・。

  つい今しがた、熱く愛を交わしたばかりだというのに、その幸せに水を差すようなその表情。

  (今でも、励みにしているのか?・・・オレを好きだといったくせに、あなたはまだナルトを・・・)

  大切に愛そうと誓ったくせに、やはり自分の性は愛するヒナタを傷つけずにはいられそうもない。

  嫉妬に侵されたネジは乱暴にヒナタを組み敷くと、荒々しい行為を再開した。

  常ならぬ乱暴なネジにヒナタが脅え泣き叫んだが、ネジは許す気にはならなかったのだった・・・・。

  




    ★ 取りあえず前編終了です。

                                  
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