第二十話「朝の…」☆
新婚初夜は、情熱的に過ごした。ヒナタが安定期に入ったせいもある。
「あっ…そんなに…っ…だ、だめえっ」
薄明かりの中、ネジがヒナタの腕を掴んでうごめく。その影が壁に大きく投影されてゆらめいた。
「あっ、ああっ!」
そのうごめく自分たちの淫らな分身に、ヒナタは羞恥にあえいで、涙を流し声をもらす。
まだ可憐な少女のようなその仕草、そんなヒナタにネジはますます興奮を掻き立てられた。
ヒナタの敏感な部分を指で擦りながら、浅く腰をくねらせる。するとヒナタがのけぞり、切なく啼いた。
ベッドサイドの小さな照明がもたらす柔らかい光。それに映える白い肌は妖艶で淫らだ。
腹の底から激情が湧きがあり、たまらずネジは腰を強く打ちつける。
肌のぶつかる音が更なる情欲の連鎖を呼び、そうして容赦ないネジの一撃がヒナタの中心を貫いた。
あぁーっ!! と、ヒナタが快楽の波に放り出され、それをつかまえるようにネジが肩をかき抱く。
ぎゅうううっ、と強張り、互いの頂点を迎えると、それから静かに果てていった。
「…今朝は俺が朝食を作るから、ヒナタはゆっくり寝てなさい。」
随分無理をさせたから、とネジは優しく微笑んでヒナタの頬を撫でる。
まだ、夢うつつなヒナタは、安心しきった幼子のように目を細めて
幸せそうな笑みを口元に浮かべまどろむ。
濃密な夜をわかちあった余韻がネジとヒナタをまだ酔わせている。
清冽な朝の光の中にあっても、それは消える事はなかった。
再度ネジはヒナタを愛しげに撫でる。すべらかで白い頬、手に吸い付くような美しい肌。
(まるで昔の面影など、ないな…)
みかん、と、あだ名された、かさつき、荒れた、幼い頃のヒナタの肌。
手に入らないなら、そのままでいて欲しいと願ったものだが…。
(…今のヒナタを見たら、あの頃お前をいじめていた奴らはどんな顔をするだろうな。)
ネジの子を身ごもって、ますます美しくなったヒナタ。少女のような愛らしさを残しつつ
それでいて、おんなとしての艶もほんのりと漂わせている。
きっと、幼い頃のヒナタしか知らない奴が見たら
あまりの美しさに腰を抜かし、虐めたことを後悔するに違いない。
それはそれで小気味がいいだろう。だが。
「今更ヒナタを、そんな奴らの目に触れさせる気はないけどな…」
静かな寝息を立てるヒナタの柔らかい唇に軽くキスをして、ネジはようやくベッドから身を起こした。
「あんなにきれいになっていたとはな…」
若いその男は、一冊のアルバムを見ながらそう呟いた。
そのアルバムに落とした視線は、気の弱そうな少女に注がれている。
男は、くくっ、と口元を歪ませた。
「傑作だ、再会が彼女の結婚式とは!」
くくくっ、と肩を震わせて笑っていた男は、アルバムを黒いカウンターテーブルから
凪払うようにたたき落とすと、カウンターバーからスコッチをあさり、瓶から直接酒をあおる。
それから空になった酒瓶までも、綺麗に磨かれた床に叩きつけると、大きくため息をついた。
豪華なマンションの居間から、続きの寝室に目をやれば、真黒なシルクのシーツに白い足が見える。
赤いペディキュアが妙に毒々しく感じた。テレビでは清楚な女優として売れている女だが。
「…おい、もう起きているんだろ。」
ベッドにいた女がけだるげに起き上がる気配がした。
それから寝乱れても絵になるような美貌の女が寝室からゆっくりとあらわれる。
「…随分、ご機嫌ななめなのね…サスケ」
女はフフと笑いながら、サスケと呼んだその若い男の首に手を回す。
男も…まれにみる美貌の持ち主だった。だが今はその美貌は不快に歪められ、怒りをにじませている。
女はため息をつくと、体を離して身支度を始めた。サスケと呼ばれた男は女に関心を示さず、再び酒を
あおり始める。彼はふつふつとわきあがる怒りを隠そうともしなかった。
「意外ね、あなたが小学校のアルバムをいまだに持ってるなんて。」
女が帰り際に床に投げつけられた彼のアルバムを見下ろしながら、そう呟いた。
だが、それを拾うでもなく、女は返事をしないサスケに眉をひそめると
抗議するように大きな音を立てて玄関の扉を閉め、立ち去って行った。
残されたサスケは、ようやく息を吸えたような、深い呼吸をする。そうして、酒の入った小瓶を口にくわえた。
ぐいと、一気に飲み干して、うつろな目で彼は床に膝をつき、アルバムを開く。
そうして又、あの写真の大人しそうな少女へと視線を注ぐ。
「みかん…」
己があだなをつけ、虐め抜いた少女。
言葉の暴力に傷ついた少女の泣き顔が、サスケの脳裏をよぎる。
気が弱い、優しい少女だった、はにかむような仕草が…愛らしい声が…
全てが腹立たしかった、だから、
だから、あの日、田舎に転校したばかりの彼は
退屈しのぎと憂さ晴らしもかねて
その少女をいじめの標的に決めたのだった。
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