第六話

 

「私は…」

朝日が大分昇り、陽光に照らされた体がさらに熱を持ち、喉がカラカラに渇いていく。
そのおかげで、声が掠れ出てこなくなってしまった。

「…っ…」

喉に手をやり焦るヒナタを、それまでジッと見守っていたネジだが。
それもここまでが限界かと、漸く口を開いた。

「任務中にあれは困る。」

「っ!!」

かなづちで頭を叩かれたような衝撃がヒナタに走る。

(ああ、やっぱり!一瞬でも何を期待したの?ば、馬鹿なヒナタ…っ…恥ずかしい…)

ネジはやはり、ヒナタを拒むのだ。あの時、噂を否定してヒナタを蔑んだ時のように。

ショックで力が抜けて、だらりとと腕を垂らすヒナタに、ネジが何かを含んだような笑みを浮かべて更に言った。

「任務に集中できなくなる。好きな女にあんな可愛い嫉妬をされたりしては…な。」

「え…」

呆けて、まだ事情を飲み込めないヒナタへネジは苦笑した。

「つまり、俺はヒナタ様が好きという事だ。だから、俺の心を任務中に乱されては困る、そう言ったのだが?」



柔らかいまなざし。
こんなに優しい顔をしたネジなんて初めてみる。
そして、夢のようなネジの告白。

(もしかしたら、これは全て夢なんじゃ…だってこんなの…信じられないっ…)

引き攣った喉の渇きでヒナタは何も返事ができずに唯狼狽していた。
自分が告白しようとしていたのに、気がつけばネジから告白されている。
嬉しいのにどう反応したらいいのか分からない。

「う…っ…あぁ…」

「いい、無理して喋るな、ヒナタ様。」

真っ赤になって体を震わせるヒナタを見れば彼女の気持ちは手に取るように分かった。
極度の恥ずかしがりやな彼女から無理に告白を引き出さなくとも今回はいいだろう。
幼い頃から見詰めてきた相手。
焦る必要も、もうなくなった今は、ヒナタのペースでゆっくり育めばいい。
―二人の愛を―

ネジは穏やかに微笑んでヒナタの手を取った。

「俺もいい加減嫉妬深いタチだが。あなたのヤキモチも相当だな。」

「っ////」

「しかも的外れな…だが…」

「?」

「可愛い。」



ネジの親指がヒナタの手の平を弧を描くように撫でる。
近過ぎる距離に、ヒナタはふとネジから化粧の匂いを感じて眉を顰めた。
そしてそれがあの女主人の香りだと気付いて思わず叫んでいた。

「ネ、ネジ兄さん、まさかあの依頼人の女の人と…っ?!」

ネジは一瞬目を丸くして、すぐにクスクスと笑い出した。
それにヒナタがムッと頬を膨らませるので、更にネジは笑いが込み上げる。

「なっ…なんですか?笑うなんてっ」

「ヒナタ様、あなた、俺の話し聞いてましたか?」

「え?」

「的外れ…勘違いで…」

「あ…///」

「喉の痛みも忘れるほど嫉妬したのか?俺があんな女を相手にするとでも?
 あなたはどうも悪い傾向にあるようだな。」

俺が口説いている間に水をさすなんて。悪い傾向だ。
ゆっくりなんて生ぬるい事はやめだ、すぐにでもこの悪いものを修正させなければ。

そう囁いた従兄はヒナタの唇へ啄ばむようなキスをした。

「に…にいさ…?///」

でも、…本当になんてこの感情は、このネジへの恋心は厄介なのだろう?
ヒナタの理性も何もかも駄目にしてしまう、その嫉妬心ときたら・・。

「わ、私のやきもちは…とてもお節介なんですっ…余計なお世話ばかり…私にこんなやきもちばかり焼かせて…
 本当にお節介で手に負えませんっ////」

「なるほど、あなたにとってその嫉妬心はお節介極まりないものなんだな。」

つ…と離れた唇を指で撫でながらネジが楽しそうに囁いた。

「だが俺は嬉しい。ずっとそのお節介なやきもちをあなたに焼いて欲しい。但し、任務中と…」

ちゅ、と又唇を啄ばまれる。そっと離れて火照った耳元を軽く噛まれ、ヒナタは小さく悲鳴を上げた。
それを抱き寄せてネジは更に耳元で囁く。

「俺があなたを口説いて愛している間は…駄目だぞ?そう、タイミングの悪さが悪い傾向なんだ。
 それを…今からようく教えてあげましょう。」

それからネジに連れ込まれた無人の漁師小屋で、ヒナタは彼に言い聞かせられるように体の隅々にまで
教え込まれ、愛されてしまうのだった。

(了)



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