中編
 

「…ヒナタ様、教えてくれないか?」
「え?」
「俺が取り返してきてやる。あなたの無様な房術など…
 正直見たくもないからな。」
「で、でも…っ」
「いいから。誰なんだ?そして取り返したいものとは?」
ネジがヒナタを落ち着かせるように、幾分優しい声音でそう言う。
それにヒナタが何か逡巡するように視線を泳がせていたが。
意を決したかのように口を開いた。

「だ…めなんです、まだ教えられません。」
「この期におよんでまだそんな口を聞くのか!」
「そ、それよりも…っ」
「?!」

ネジは己の胸に飛び込んできたヒナタに驚いた。

「ヒナタ様?!」
「そ…それよりも…お願い…」
「何だって?」
「サ、サポートです…私は最後までする覚悟が…あるんです。」
「!!!」
「だ、だから、ネジ兄さんに…前もって…」
手ほどきを、と震える体でヒナタは囁いた。



(どうしよう?どうしよう?)
ネジに抱きつきながら、ヒナタは内心かなり焦っていた。
彼はヒナタを嫌っている、でも生真面目な彼は任務とあれば
心を殺して、ヒナタを抱くはずだ。
そんな思惑で、嘘の依頼をでっちあげて彼を巻き込んだ。
全てはネジに抱かれるために。

『日向の嫡流に、天忍の血を色濃く受け継ぐネジの血を取り入れたい。』
『あれの天才の遺伝子を、宗家に取り戻したい。』
『だが、あれはいくら頼んでも拒否した、お前ともハナビとも結婚しないと。』
『しかも…性質が悪い事に・・・』

(あやつは、自力で呪印を解印してしまった、もう力では従わせられない。)

宗家との縁組を断った彼を、どんな手を使っても堕とさねばならない。
自分でも随分稚拙な罠だと思うが、これがヒナタの精一杯だった。
ヒナタ自身に興味を抱かせるなんて無理だと思ったから、任務に真面目なネジを
色任務のてほどきという形で、誘いこんで。
そうして関係を持ってもらおうと企んだ。



「お、お願い…?教えてくれませんか…?」
体がカタカタと震えたが、ヒナタは必死でそれを口にした。
ネジの体は硬く強張っている。
それにヒナタは、この企みも失敗したのかと絶望した。
(ああ、やっぱり私なんかじゃ、駄目なんだわ…)
でも、父があんなに縋るようにヒナタに頼み込んだ。
もうお前しかいないのだと、そう言って。
どうしてネジに嫌われている自分なのか、疑問はあったが。
しかし、最後まで諦めるわけにはいかない。
ヒナタは、震えつつもネジの頬へと、微かに唇で触れた。

「ネジ…にいさ…ん…おねが…い…」

再度懇願する。
するとネジがヒナタの肩をつかみ、おのれから引き剥がした。
乱暴に体を押されて、ヒナタは畳の上に転んでいた。

「ネジ兄さん…っ」

泣きながら顔を上げれば、冷たいネジの瞳。
彼はヒナタを見下していた。



「俺に、あなたの処女を奪えというのか?」

蔑みを含んだ声がヒナタを切り裂いた。

(ああ、やはり…私では駄目なんだわ…)

力なくヒナタは項垂れた。擦りむいた膝が痛む。
随分強く体を押されたから。それほどネジの怒りは強いのだ。
嫌いな女に、任務の内容をはぐらかされた上に、迫られて。
堅物で清廉潔白で通っているネジに、最悪の所業と取られても
無理はなかった。
(なんて、愚かだったんだろう…もうおしまいだわ…)
ヒナタが自己嫌悪に陥っていると、ネジの鋭い声がした。


「そんな真似しなくとも、俺が取り戻してやると言ってるだろう?!」

「ネジ兄さん…?」

「あなたは汚れる必要などないんだ!あなたは好きな男と結ばれればいいんだ!」

「?!」

「ナルトの事だけ好きでいればいいんだ。望まぬ行為に堕ちることはない。」



(ネジ兄さん?)

呆けにとられるヒナタへ、気まずそうにネジが言い放つ。

「折角俺が…あなたとの縁談を断ったのに…俺の善意を無に帰すつもりか?」

「ぜ…善意?」

「そうだ、俺はあなたの幸せの為を思って、縁談を断った。ハナビ様については
 お話しにもならないからだが。」

ぽかんとするヒナタに、更にネジは困惑した眼差しを向ける。

「ナルトが好きなんだろう?綺麗なままで、いつかアイツに振り向いてもらえるまで
 頑張ったらどうなんだ?…あなたの忍道なんだろう?」

まっすぐ自分の信念は曲げないって。

「ネ、ネジ兄さんは…私が嫌いじゃなかったんですか?」

「馬鹿な…そんな筈なかろう?従兄妹なのに。」

「従兄妹…では、本当に嫌いじゃないんですね?」

「?…あ、ああ。嫌いじゃ…ない。だが、それがどうした?」

訝しげに目を細めるネジへ、ヒナタはとうとう自分の謀を白状してしまおうと決意した。



(嫌いじゃないなら…まだ望みはあるわよね…?)

「ネジ兄さん…あ、あの実は…この色任務、嘘だったんです。」

「なんだと?!」

「あ、あの…本当は…真の目的は…ネジ兄さんなの…。」

「?」

「あ…あの…父上が何より望んでいるのは…ネジ兄さんを…宗家に
 迎えることなんです。だ、だから、縁談を断ったネジ兄さんを…篭絡するために
 き、既成事実を手に入れろと…」

「まさか…?」

「ごめんなさい、に、任務だったら…私の事を抱いてくれるかと…思ったから…
 わ、私、ネジ兄さんの…子供を宿すように…父に懇願されて……そ、それでっ」

真実を白状して、胸のつかえが下りる。人を騙すなんてヒナタには苦痛でしかなかったから。

「本当にごめんなさい…ネジ兄さんが、そんな風に私を思いやってくれてたなんて…
 夢にも思わなかったから…こんな卑怯な謀をしてしまって…」

でも、とヒナタはネジを見上げる。それにネジがびくりと身構えた。

「…でも、どうかお願いです。私を嫌いでないのなら…私の願いをかなえてくれませんか?」

「ヒ…ヒナタ様…」

「ナルト君の事は…随分前に諦めたんです。…もう…何も彼には望んでいないんです。だから…」

「馬鹿な…それでいいのか?!好きでもない俺に抱かれて…ヒアシ様に利用されているに過ぎないんだぞ?」



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