第三話「最高の贈り物」
    
 


それから2日後、今日はネジの誕生日である。

日向一族が誇る天才のネジを可愛がるヒアシは盛大な宴を開いてくれた。

「今日は私の可愛い甥の誕生日だ、彼を今日から準宗家とし、そして・・・」

主席に座るネジの傍らには、げっそりと痩せたヒナタの姿があった。それに目を向けてからヒアシは続ける。

「私の娘婿として、祝福したいと思っておる。みなの者も、ネジの明るい前途を祝って欲しい。」

会場を埋め尽くす一族にどよめきが走り、ネジの誕生日への祝辞とヒナタとの婚約を祝う言葉が次々とネジへ
 
かけられた。それに顔を紅潮させながらネジが礼をのべている。その表情は晴れやかで嬉しそうである。

その隣りには対照的に疲労しきったヒナタ。

あれからずっと訳も分からぬままに、ネジから強烈な愛の洗礼を浴びせられ・・・殆ど寝ていなかった。

だから、朦朧としたまま。流されて気がつけばこの場に座っている。体のあちこちが軋むように痛かった。

(それにしても、ヒザシ叔父さま・・・夢はかなったのかしら・・・・?)

結局ヒザシにいいように利用されて、ネジの餌食にされてしまったというのに、ヒナタはそれに気付かずに

あの日から姿をみせない彼の事を案じていた。




「ヒナタ様、顔色が悪いな・・・少し外の空気でも吸いに行くか?」

ヒナタを気遣ってネジが優しく声をかけてくる。正直まだ彼が怖かったが、何度もまじわる内に情が移っていた。

ネジは前からヒナタを愛していたそうだが、ヒナタは抱かれるまでネジをそんな風には見ていなかった。

ヒナタにとっては体から入った関係だが・・・それがおっとりとして奥手な彼女には良かったのか。

少しずつではあったがネジの事を愛しいと思い始めていた。だから、優しい彼からの言葉が嬉しくて

ヒナタははにかむように微笑んでいた。その花も綻ぶような微笑にネジが口元をゆるめた。

「・・・・これだ、俺が見たかったのはこの微笑みだ。あの夜の作られた笑みとは違う、この微笑み。」

「え?」

「さあ、外に行こうか。すこし位なら誰も気にとめないよ。」

ネジから促されて、縁側に出る。中庭の大きな楡が木陰を作っているその先に、二人は佇む。

「嬉しかったよ、ヒナタ様が俺とずっと一緒にいてくれると言ってくれたときは。」

「は、はあ・・・・(ヒザシ叔父さまが言ったのかしら・・・)」

「あなたは恥らう性質だから・・・ずっと小さく抵抗しては泣いていたけれど・・・それが可愛かった。」

「そっ・・・・そうですか・・・」

今更誤解だったとは告げられない。それに・・・今ではネジと離れがたく感じている自分がいる。

怖いとしか思えなかったネジの情熱や優しさを身をもって知ってしまった今、ヒナタは彼の傍にいたいと

感じている。だから、ヒザシの言葉である「ずっと一緒に」というそれは、今はヒナタの本心なのだ。

(だから・・・ネジ兄さんをだましたことには、ならないわよね?)

少し胸が罪悪感に痛んだが、ヒナタだって心構えもなくいきなりネジに操を奪われてしまったのだから

おあいこだわ、と一人うなづいた。





そんな二人を、楡の木立から幽霊ヒザシは、そっと見詰めていた。

あのままヒナタの体から抜けた彼は、何故か二度とヒナタに近付くことも、交流することも出来なくなっていた。

なので、誰にも気付いてもらえずに、うろうろと宗家を彷徨っていたのだが・・・・

それが今日になってネジの誕生日を盛大に祝うのだという。破格の扱いにヒザシは宗家に抱いていた嫉妬や

憎悪が薄らぐのを感じていた。すると汚い感情が抜けたせいか、ようやくヒナタの傍まで近づく事が出来た。

そうして、その傍らには嬉しそうな顔をしたネジの姿があり、それを目の当たりにしてヒザシは息を呑んでいた。

(ネジ、お前の幸せは過去でなく、ヒナタ様との未来にあるのだな?)

過去のヒザシが託した願いや野望じみたものに、ネジはもう縛られていない。ネジは前に進んでいるのだ。

(生前の・・・・しがらみに縛られているのは私だけという事か・・・)

幸せそうなネジの姿に彼は目頭が熱くなる。死んだものは忘れるのが今を生きる者の幸せなのかもしれない。

一抹の寂しさがヒザシの胸をよぎったが・・・ネジが幸せならもう思い残す事はない。

(・・・・ネジ、幸せにな・・・私はお前の母さんのところに逝くことにするよ・・・)

だが、ふとヒザシの頭に何かが引っ掛かった。

(そういえば、なんで今頃私はここに帰ってこれたのだろう?)

気になったが、未練が吹っ切れて浄化し始めた幽体はどんどん薄くなっていく。

まあ、いいか・・・と微笑んでヒザシは光りが溶ける様に消えていった。







「ネジ、こちらへ」

宴の後、ネジはヒアシに宗主の間へと、ヒナタと二人呼ばれた。

「実は・・・ようやく念願のものが手に入った、いや、戻ったというべきか。これなのだが。」

ヒアシはそう言うと、懐から小さな守り袋を取り出した。

「…雲の国に幾度も交渉した結果、漸くヒザシの遺体の一部だけだが、手に入れる事が出来たのだ。」

「父上の?」

ネジは弾かれたように目の前に差し出された守り袋に目をやった。

「そうだ、この中に・・・小指の骨が入っている。遺髪よりもよりヒザシを偲ばせてくれるものであろう?」

「小指の・・・・骨・・・」

「お前に渡そうと思っていたのだが、すまぬ。今日まで僅かの間、私もあれを偲びたくて懐に抱いておった。」

「?!!」

「・・・・私もあれの兄なのでな。」

ぽたりとネジの膝に雫が落ちた。それに気がついてヒナタは胸が熱くなった。

(ネジ兄さん、良かったですね・・・・叔父さまの遺骨が戻られて・・・・)

潤む瞳でネジを見詰め、ヒナタは静かに目を閉じる。






ネジにとって最高の贈り物が、二つも手に入った誕生日であった。









☆ すいませんとまずお詫びを・・。実はこの話し、もっとシリアスで泣けるものだったのですが
  書いてるうちに、何だかギャグ?モードに。でもこの方が楽だったのでこのままにしちゃいました。
  (Hも当初はなかったので、ネジ兄さんにとってはこっちの方がうれしいと思いますしねv)
   ネジBD小説なので、7/3にUPすべきなのですが、当日は多分違う作業で手一杯だと思うので
   善は急げということでもうUPします。ネジ兄さん、おめでとうございました!(2006/6/28UP)






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