第二話「成り行き」

 

「・・・・こんな遅くになんですか?」

不機嫌そうな従兄の応対にヒナタは早く立ち去りたくて冷や汗をかいた。

だが、隣りにいるヒザシが怖くて、彼のいう事を聞かざるを得ない手前、嫌だったがそれを切り出した。

「あっ・・・あの・・・きょ、今日は父上に・・・任務でしばらく家を空けますと・・言ってきました。」

「え?」

「っ・・・・ひ、日頃お世話になっているネジ兄さんに恩返しを・・・少しでもしたいと思ってっ・・・」
 
「・・・俺は、日頃あなたのお世話などしてないが?」

「あっ、そ、そうですよね、じゃあ、私はこれで・・・」

ホッ、として踵を返そうとしたヒナタの肩をヒザシが幽霊のくせに強く掴んで、ネジの目の前に引き戻す。

ああ、と涙ぐんで、ネジへと視線を向ければ、秀麗な顔が訝しげにヒナタを見下ろしていた。

「驚いたな・・・ヒアシ様の前でしか俺に近付かないヒナタ様が。これはヒアシ様の指図か?」

「え・・?」

「俺を宗家に取り込むための、あなたは人身御供なのか?」

「ひ、ひとみごくう?何のことですか?」

人身御供って・・・・自分にネジを繋ぎとめるだけのものがあるとは思えないヒナタは、きょとんとしてしまう。

「・・・・違うのか。ではあなたから自発的に俺の世話をしたいと思って来た訳なのだな?」

「え、あ、(本当はヒザシ叔父さまに脅されて仕方なくなのだけど・・・)・・・は、はい、そうです。」

「ふうん、そうか。じゃあ折角だから上がってもらおう。」

ネジに中に入るように促されて、ヒナタは幽霊ヒザシと屋敷の中へと入っていった。





「ひ、ヒザシ叔父さま、やりたい事ってネジ兄さんのお世話なんですよね?」

「ああ、そうだ。私は可愛い息子の世話をしたい。だからその間、ヒナタ様の体を借りたいのだ。」

ネジが席を外してる間、二人はヒソヒソと会話を交わしていた。傍からみれば独り言をぶつぶつ言ってる

不気味な光景だが、今は周囲に誰もいないので、密談は交わされ続ける。

「じゃ、じゃあ、どうぞ・・・これでヒザシ叔父さまへの償いになるのなら・・・私は本望です・・・。」

「かたじけない、ではしばらく眠っていてください。」

ヒナタのうなじの窪みからヒザシは幽体をすべりこませる。ぼんの窪と呼ばれる憑依するための入り口なのだ。

(ああ、良かった・・・ネジ兄さん、お父さんにたくさん甘えてね・・・)

それを最後にヒナタは意識を失った。





(何をやってるんだ?あの人は)

お茶の準備をしている間、気になって白眼でヒナタの様子を台所から客間へと窺っていたネジは

独り言をぶつぶつと呟いて、次いでがくりと項垂れるヒナタに奇異なものを感じていた。

警戒しながらも、障子戸を開いて客間に入ると、きちんと背筋を伸ばしたヒナタに驚いた。

「ヒナタ様?何だかいつもより・・・しゃきっとしてないか?」

「そんな事はないです!あ、お茶をありがとうございます。頂きます。」

「あ、ああ。」

やはりどこか、おかしい。本当にヒナタなのだろうかとネジが更に疑っていると、ヒナタ(ヒザシ)が

にっこりと微笑んだ。その微笑に、がたんっ、とネジはあとずさる。

「な、なんだ?あなたが俺に微笑むなどっ・・・正気か?!ヒナタ様っ」

「え?なんで?」

「い、一度はあなたを殺そうとまでした俺だぞ?あなた、今でも俺を恐れてあまり近付かないじゃないか。」

「ネジ!おっ、お前ヒナタ様を殺そうとしたのかっ?!!!」

「?!」

がばりといきなり胸倉をヒナタ(ヒザシ)に掴まれてネジはアタフタとしてしまう。

だがヒナタ(ヒザシ)はそんなネジにはお構いなしで、大きな声でまくし立てた。

「よくやった!!やはり宗家転覆をお前は目論んでいるのだな!!準宗家などと、牙を抜かれてしまったかと

 私は心配でお前の身を案じていたのだがっ、そうかそうか!ヒナタ様を殺そうとしたのかっ」

「なっ、何を喜んでいるのだ?あ、あなた、頭は大丈夫か??」

「あっ、あらっ。私ったら・・・ごめんなさいっ、ほほほほっ。」

いきなりヒザシですとカミングアウトすれば、きっと現実主義の息子の事だ、追い出されてしまうだろう。

なのでヒザシは、しなを作って笑って誤魔化した。ネジからの強い疑いの視線に冷や汗が流れたが

それでもどうにかやり過ごそうと名案を口にした。

「あっvそうだ、ネジ兄さんに私、お料理作ってあげるっ!」

「あなたが?・・・だがもう既に夕飯はすませた。」

「じゃあ、お風呂にしましょうっ!お背中を流しますわ!」

「なっ/////」

「さあ、遠慮なさらずに♪」




遠慮するなと言われても。

今、この状況にネジはあんぐりと開いた口がふさがらなかった。

「ふふ、裸の付き合いですね、ネジ兄さん。気持ちいいですか?」

「あ、ああ・・・」

曖昧に答える。怖くて振り向けない。ネジの背中をごしごしと洗うヒナタも又全裸なのだから。

「・・・こうしてネジ兄さんとお風呂に入れて嬉しいです。長い間、一人で寂しかったでしょう?」

「え?・・・ま、まあ・・・」

「これからは私がこうして傍にいますからね!ずっと一緒ですよ、ネジ兄さん。」

「え・・・・?」

(そうだ、この体を私がヒナタ様に返さずに、ずっと頂いてしまえば、私は息子とずっと一緒にいられる。)

ふふふと、腹黒い奸計をヒザシが巡らせていると、ネジがいきなり振り向いた。

「あ、あら、どうしたんですか?ネジ兄さん。」

「本当か?」

「え?」

「本当にずっと一緒か?」

「ええ、(何を血走った目で私を見てるのだ?ネジのやつ・・・) ずっと一緒ですよ?」

「何だか今夜のあなたはいつもと違うような気もするが・・・据え膳喰わぬは男の恥というからな。」

「?????」

「御免、ヒナタ様!いざ、参る!!」

覆い被さる影にヒザシはぎゃふんと悲鳴を上げた。まさか息子に襲われるとは夢にも思ってなかったのだ。

(そっ、そうか、すっかり忘れていたが、この体はヒナタ様のもので、ネジはさかりのついた年頃の健康な

 男子だったのだっ!!わ、私とした事が、まさかヒナタ様などにネジが欲情するとは思わなかったからっ)

「やっ、やめて、やめて下さい、ネジ兄さん!」

ヒナタ(ヒザシ)は、体中にキスしてくるネジの頭をぐいぐいと両手で押しのけて必死に抵抗した。

「私たちはっ、いっ、従兄妹なんですよっ?!こんな事許されるはずがないでしょっ!」

「何を今更・・・実は内緒にしていたが、ヒアシ様は俺とあなたを婚約させようとしてたんだ。」

「えええ?」

「だが、あなたに疎まれるのが辛くて俺は断った・・だがこうしてあなたが俺に好意をみせてくれるなら・・」

「ネ、ネジ?」

「俺はもう迷わない・・・好きなんだ、ヒナタ様・・・・・・っ」

(そ、そんな・・・ネジ、お前が最も欲しいものは、宗家などではなく、この小娘だというのか?)

衝撃に力が抜けた幽霊ヒザシは、ふっつりとヒナタの肉体から抜け出てしまった。

その拍子にヒナタの意識が目覚めた。

「う・・・・・ん・・。あ、あれ?」

「ヒナタ様・・・痛いだろうが耐えてくれ・・・」

「????!!!」

目覚めた瞬間に、苦手だと敬遠していた従兄に股間を貫かれ、ヒナタは激痛とともにパニックに陥ってしまった。

(なっ、なんでっ?!ヒザシ叔父さまはどこにっ??あっ・・・いっ、痛いっ!!!)

湯気が立ちこもる浴室に響く情事の音色。みだらな行為にヒナタは力なく、ネジの動きに揺らされて。

「・・・・っ・・・・ヒナタっ・・・ヒナタっ・・・・好きだっ!」

どうしてこんな事になったのか分からないまま、純潔をネジに奪われて、ヒナタはぐすぐすと

泣く事しかできずにいたのであった。










                                



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