第一話「帰ってきたあの人」

        

ヒナタは目の前にあらわれた人物に、心臓がとまるかと思った。深夜0時過ぎ、ふと寝苦しさに目を覚まし

喉の渇きに気がついて、水でも飲もうかと起き上がれば、そこに存在しないはずの人物が布団の下方で

正座してヒナタをじいっと見詰めていた。

最初、父親のヒアシかと思ったが、よくよく見ればかなり若い。その上髪型が微妙に違う。

まさか、そんなはずはない、と夢でも見てるのだと思い込んで、ヒナタは彼の人に話しかけた。

「こ、こんばんは、ヒザシ叔父さま…まさか夢でお会いできるとは思いませんでした。」
 
「・・・・・・・・・・・・・。」

「わ、私、ずっと・・・ヒザシ叔父さまに・・・謝りたいと思ってたんです。だから・・・お会い出来て嬉しい・・・」

うっすらと涙ぐみながら、心優しい彼女は、無愛想に自分を睨むように見つめる亡き叔父へと語りかけた。

怖い顔は従兄のネジで慣れている(慣れたくもないが)、だから夢の叔父ごときに睨まれても存外ヒナタは

おどおどとしながらも、平気であった。無言な叔父に彼女は健気にも話しかけ続けた。

「叔父さま?あ、あれからもう…13年も経ったのですよ?…3歳だった私も16歳になりました、それから
 
 ネジ兄さんも、今度の誕生日で18歳になられます。とても立派になられて…みなの憧れですわ…。」

そう、彼の遺児であるネジのことを伝えると、それまで微動だにしなかったヒザシが微かに表情を曇らせた。

「ヒザシ叔父さま?どうなされたのですか?」

「・・・・・・・・ネジは、幸せなのですか?」

「え?え、ええ、もちろんです、ネジ兄さんは上忍になられて、日向で最も誉れ高い者だと、父上も認められて

 ・・・・今度、新しく設けられた、準宗家という地位に就かれることも決まってますし。」

「準宗家?」

「は、はい。宗家に次ぐ地位なんです。呪印は解く事は出来ないのですが、宗家同様の扱いが許されるんです。」

「つまり、ネジ一代限りの特権階級という事ですか。・・・兄上も苦肉の策といったところか・・・。」

「え?」

「天才であるネジを日向に繋ぎとめるために飴をくれてやった、というところではないのかな?」

「そ、そんなっ・・・父上はただ純粋にネジ兄さんが素晴らしいから・・・打算などないと思いますっ!」

「どうかな?兄上は昔から計算高いところがあった。だがネジが本当に欲しいのはそんなものでない筈。」

「え?」

「ネジが本当に欲しいのは・・・宗家自身だ。私の遺言どおり、ネジは宗家になりたいと願っている筈だ!」

「そっ、そうなんですか?し、知らなかったです・・・そうなんですか・・・。」

すごい夢だなあと、彼女は人の良さからまだそう思い込んでいた。目の前で宗家転覆を願う不届き者の

戯言に慌てることもなく、どうせ夢なのだからと感心するだけだった。

そんなヒナタの態度が気に入らないのか、ヒザシは登場時と同じようにヒナタを睨みつけてきた。

「・・・・ヒナタ様は何年経っても宗家には向かないぼんやりとした、いや、凡庸な方なのですな。

 正直がっかりいたしました。あなたのような甘いお方に私のネジが仕えねばならないなんて・・・」

「す、すみませんっ・・・」

「すみませんで済めば、うちはの警察隊はいりません。」

「あ、ごめんなさい、今は・・・うちは一族は滅亡して木の葉にはおりません。」

「なんですとっ?!馬鹿な!」

「本当です、それに・・・今は火影様も変わられて、あの有名な三忍の綱手様なのですよ?」

「むっ!ギャンブル狂のあの綱手っ?!!あの巨乳の綱手様がっ!!!木の葉は大丈夫なのかっ?!!」

慌てふためく叔父の姿に、ヒナタはふふっと思わず微笑んでいた。面白い夢だなあと呑気に構えながら。





だがそれは夢などではなかったのだった。

翌朝目が覚めてからも、ヒザシはずっとヒナタの隣りにいるのだ。さすがに慌てるヒナタ。

だが、父も妹のハナビも、ヒザシが見えないらしく・・・・否、ヒナタ以外誰にも見えないらしく・・・・。

「ゆっ・・・・幽霊?!!!」

ひいいいっと腰を抜かすヒナタへ、やっと分かったのか?といった呆れ顔でヒザシが嘲笑した。

「不本意だが、どうも我が一族は気質が強くて幽霊など受け付けない現実主義者の集団らしくてな。

 そんな中、唯一夢見がちなヒナタ様しか私に気付けるものはいないので・・・こうして傍にいるのだ。」

「ふぇっ?ふぇっ?ふええぇ???」

「どうして傍にいるのか、だと?・・・・実はヒナタ様、あなたに私の無念を晴らす手伝いをして欲しいのだ。」

「ふぅひぇ?」

「ネジ本人が私に気付いてくれればいいのだが・・・・あの子は筋金入りの現実主義者で頭が固い。あの子の

 前では悪霊さえとりつく事を諦めざるを得ないだろう。・・・そこで、憑依体質のヒナタ様に。」

「ひ?」

「私をのせて頂いて、私の遣り残した事をさせて頂きたい。」

(えええええええ?!!!!)




強引なネジの父親だけあって、幽霊ヒザシもかなりのごり押し男なのであった。


                             


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