第十七話「久々に」☆

   
「まったく・・・人が疲れているのにチヨには参る!」

ぶつぶつと文句を言いながらヒナタの部屋を訪れたネジは、慈しみの笑みを浮かべる婚約者を抱き寄せた。

「俺は他人に体をいじられるのが大嫌いなんだ、それなのに・・・」

「でもネジ兄さん、すごく素敵になったわ・・・思わず見惚れちゃったもの・・・」

溜息まじりに耳元でそう囁けば、それまで不機嫌だったネジの眉間の皺も綺麗に消える。

「・・・久しぶりにあなたを愛したいが・・・その、大丈夫かな?」
 
「ええ、あまり激しくしないなら大丈夫みたい。」

そういってヒナタがテーブルに置かれた妊娠の本を指し示した。
そこには妊娠中も安全な体位などが色々親切に図柄入りで掲載されている。
思わず手に取り真剣な顔でそれを読んでいたネジは、心得たとばかりに本を戻すと
再びヒナタを抱き締めて静かにベッドへと横たえた。 
  
「浅く、ゆっくりか。それであなたが満足すればいいのだが・・・」

「あっ!」

「ん?何だか感度が良くなっていないか?」

ヒナタの体を優しく愛撫しながら、その反応の良さにネジの息は乱れる。
久々の行為に荒々しい衝動を覚えたが必死に耐えて優しく愛する事だけを頭に浮かべた。
何といってもこれは愛の交感で単なる性処理ではないのだ。

「あっ、あっ・・・いゃぁ・・・っ!あぁーっ・・・はぅぁーっ・・・っ」

すすり泣くようなヒナタの喘ぎ声に又も強く突きまくりたい衝動に駆られるが、ネジは耐えて
彼女の胸を優しく吸った。

(浅く、だったよな?)

先程の図を思い浮かべながら静かにヒナタの中へと入っていく。
するとまだ先端だけだというのにヒナタが弓なりにからだをそらせて、一際甘く泣き叫んだ。
思わぬヒナタの行動にネジの気遣いは徒労に終わり、からだをそらせた勢いで二人の繋がりは
深いものになってしまっていた。

「ヒッ・・・ヒナッ?!」

「あぁーっ・・・にいさぁんっ!」

きゅっと首に腕を回されて抱き締められる。更に角度が加わって、ネジは快感に歯をくいしばった。

「くっ!」

「あぁ・・・にいさんで・・・いっぱい・・・」

艶を帯びた甘い囁きが吐息と共に耳にかかる。同時にヒナタがひくひくとネジを締め付ければ
ネジの理性など簡単に吹き飛んでしまう。

「うぁ・・・だ、だめだっ!我慢できないっ!」

いけないと思いつつも、体はいう事を聞いてくれない。久しぶりというのもいけなかった。

「す、すまない・・・っ・・・すまない、ヒナタ・・・っ」

ヒナタの豊かな胸に顔を埋めながら、ネジは夢中でヒナタを愛し続けた。

『激しいのは、まだ禁止!』

いかつい老看護婦の言葉が頭をよぎったが、愛するヒナタがネジを激しく求めているのだからと。
ネジは理性を彼方に吹き飛ばして、ヒナタを思うがままに愛してしまうのであった。





ぐったりとベッドに横たわり、二人は甘く乱れた呼吸を整えていた。

「ヒ・・ヒナタ、赤ん坊は大丈夫か?」

お互い、すっかりヒナタが妊娠している事を忘れて、夢中で愛し合ってしまった。
浅く、ゆっくりなんて考えられないほどに行為へ溺れてしまった事が、欲望から解放されると
気恥ずかしく、後悔が胸をよぎる。

ヒナタが小さく違和感を訴えた。それに身を震わせてネジはヒナタの股間に触れる。
微かにネジの指に血がついた。

「――――――っ!!!!!」

この世の終わりとも思える恐怖にネジは声なき絶叫を上げた。




「だから、激しくすんなといったろうが!!」

時間外であったが、あれから急いで受診した。丁度夜勤でそこにいたあの怖い老看護婦がネジを
激しく叱りつける。それを哀れみながら女医が口を開いた。

「赤ちゃんは大丈夫ですよ。ただ妊娠すると充血しやすいので、行為をすると出血することがあるんです。
 でも、危険な出血かどうかは受診しないと判断できませんから、何かあったら必ず来てくださいね。」

「はい・・・」

しゅんと落ち込むネジへ、ヒナタが心配そうな眼差しをむける。私も悪かったの・・・と微かに涙ぐんで
隣りに付き添っていたネジの袖をつかんだ。

「ヒナタ・・・」

きゅん、とネジの胸が鳴った。縋るような愛らしいヒナタ。彼女との間に授かった大切な命を忘れて
欲望に落ちた自分が恥ずかしく感じた。
真摯に反省するネジに、ヒナタが涙ぐんだ。

「ご、ごめんなさい・・・わ、私がおねだりしたからっ・・・!兄さんは悪くないのに・・・こんなっ・・・」

「ヒナタ、それは違う。俺が悪かったんだよ。」

「ううん、私が、凄く気持ちよくてっ・・・あ、赤ちゃんの事忘れちゃったからいけないのっ!いくら
 ネジ兄さんの指が気持ちいいからって、あ、あんなに・・・おねだりしちゃうなんてっ・・恥ずかしい!」


しくしくと泣き出すヒナタを抱き寄せながら、ネジは「いいんだよ、それでいいんだ。」と反省したのか
してないのか、訳の分からない返事を返していた。
そんな二人だけの世界を作るネジとヒナタに、女医と老看護婦は狼狽する。

「お、奥さん///?」
「なんと、教育しなきゃならんのは、嫁の方だったのか!!」

天然なヒナタお嬢様とそれを溺愛するネジに、女医と老看護婦は頭を抱えてしまうのであった。





                               
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