第十四話「新しい生命」

  
チヨが女医にヒナタは婚約中だと告げたので、彼女たちはヒナタが産むものと結論づけて処置をしてくれた。
妊娠初期にありがちな不正出血で心配はないとの事だが、大事をとって一晩入院する。
今日はネジが宗家から帰る日なのに、とヒナタは病院のベッドの中で溜息をついた。
さっきは突然の告知に頭の中が真っ白になってしまったが、今は幾分落ち着いてきた。

(いつ、妊娠したんだろう・・・?まさか、最初のときに?)

かぁっ、と頬が熱くなって、ヒナタは思わず布団を頭から被ってしまった。個室なので人目もないのに
なんだか恥ずかしくて仕方ない。そして、そっとお腹に手をのばした。

(ここに・・・ネジ兄さんの赤ちゃんがいるんだ・・・)
 
じんわりと、あたたかいものが胸に込み上げてきた。あの、手が届かないと諦めていた従兄の子供。
ヒナタより遥かに優れて遠くに感じていた、ネジの。彼の子供がヒナタの中に宿っているのだ。
 
(夢みたい・・・) 
 
不思議と怖さはなかった。いきなりの新しい生命の到来に、驚きこそはすれ、嫌悪感や後悔などは
一切おぼえなかった。ただ、疼くような幸福感がヒナタの中に溢れている。

そうっと、横たわったまま、窓を見た。回診の看護婦が来て「もう暗くなりますからカーテンを閉めますね?」
と言って、差し込む柔らかな金の夕日を静かに遮断した。完全看護なのでチヨはもう帰っている。
今頃は自宅に戻り、丁度帰宅したネジへこの事を話しているかもしれない。
その光景を思い浮かべただけで、胸がきゅんとした。

(ネジ兄さん、どんな顔するんだろう?)

出来る事なら、その初めての顔を一番にヒナタが見たかったけれど・・。この状況では無理だから・・。

(でも、明日になれば…)

ネジも必ず喜んでくれる、そう確信してヒナタは微笑みながら眠りについた。




   


さて、ヒナタの予想通りチヨからもたらされたヒナタの妊娠話しに、ネジは驚愕し次いですぐに狂喜していた。

「そ、そうか!!やはり、あの時に俺の子が宿っていたのだな?!さすがヒナタだ!」

「・・・なにが、さすがなのですか?坊ちゃま。」

「俺の愛をすかさず結晶としてその身に宿してくれた、ヒナタは女神だっ!」

感極まって咽び泣くネジに、チヨが冷ややかに答えた。

「何が女神ですか。ご自分の失敗を誤魔化して。坊ちゃまは経験が少ないから、ヘマしただけでしょ。」

ぐっ、とネジが身を強張らせた。だがチヨのマシンガントークは容赦なくネジへと連射される。

「思春期の飢えた少年じゃあるまいし・・・いずれこうなるとは薄々予感してましたがね。」

「なんだと?!」

「坊ちゃまは、できちゃった結婚するタイプだと、昔からチヨは思ってました。しかもお相手はヒナタ様。」

「なっ!!」

「どうせ、舞い上がって避妊を忘れたんでしょう?何せ長年お慕いしてきたお方ですしねえ。」

図星なので、ネジがぐうの音も出ないでいると、チヨがさらりと付け加える。

「ヒナタ様もお可哀想に。就職したばかりで、これからという時に無責任な行為で妊娠なんて・・・」

「そ、それは、俺だって悪いと思ってる!だ、だが、結婚してからも仕事が続けられるように
 俺は出来るだけ、応援するつもりだ。二人の子供なんだしヒナタだけに負担はかけたくないとっ」

存外、紳士というか。強引に見えてネジは女性に理解がある。チヨは思わず目を細めた。

「・・・それでこそ、私が手塩にかけてお育てした坊ちゃまです。そのお気持ち、忘れないで下さいよ?」

「ああ、忘れない。」

髪をくしゃりとかきあげて、ネジは頬を染めて頷いた。
明日になれば、面会出来る。明日になったら朝一で病院に駆けつけて、ヒナタを抱き締めてやろう。
そうしてヒアシの祝福と、新たな生命の喜びを、二人で心ゆくまで分かち合おうとネジは決めていた。



                           
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