猫背「ネジサイド」  


  「ネジの従妹のヒナタちゃん、可愛いじゃない?」

  ニヤニヤとテンテンはネジに小声で話しかけた。どうやら二人のやりとりをどこかで見ていたらしい。

  気まずさにネジは眉を顰めた。知らず頬が上気する。

  彼はいまだに動揺していた。彼が知らぬ間にあの大人しいヒナタは異性として成長していたのだ。

  異性のからだの線など、驚く事もなく今まで来たのに。何の興味も湧かずに居たのに。



  なのに・・・。



  ネジに強烈な衝撃を与えたのはヒナタの胸が人並み以上に大きいからではない。

  ヒナタが女性として変わり始めていることに衝撃を受けたのだ。



  (・・・なんて事だ。ヒナタ様に触れたい等と・・・・!不埒な!)



  一人思考に沈み苦悩するネジを他所にテンテンはリーと仲良くはしゃいでいた。

  それを恨めしそうに遠くで見るキバ。テンテンにこき使われてボロボロだった。


  
  「じゃあ!!解散っ!!」
  


  帰り道、方向も一緒なのでネジはヒナタと一緒に歩いていた。

  「ネジ兄さん、今日はありがとう。」

  「ふん、もう少し忍びとしての自覚を持つのだな。」

  今日も冷たく当たってしまう。

  横目でそっとヒナタを盗み見ると彼女は猫背で俯いていた。見慣れた仕草だが・・・・。

  ふと、ネジはヒナタが何故いつも猫背なのか、唐突に気が付いた。

  (そうか・・・、胸が目立つのが嫌だったから背を丸めていたのか・・。)

  隣で小さく縮こまるように、猫背で俯きながら歩くヒナタにネジは胸が痛んだ。



  本当は大好きで、大好きで仕方がなかった。でも彼女は父の仇の娘で、父の死ぬ原因でもあった。

  父を裏切るわけにはいかない。だからこれ以上心が奪われる前に消そうと思った・・・・。

  だが、出来なかった。無意識の内に手加減していた。彼女は死ななかった。

  涙が出るほど嬉しかった。彼女が助かったとき一人声を上げて泣いた。

  でも、その思いは殺さねばならない。そんな闇にあがく自分をナルトが打ち砕き光りを見せてくれた。

  それから・・・父の死の真相と父の真意を知り、全てが誤解だとわかった。

  

  (俺は・・・自分の罪が許せない。幼い頃からヒナタ様を責め、この人を蔑んできた。

    そのせいでヒナタ様は自分を責め続け、自分に自信が持てなくなってしまった。もちろん、ヒアシ様の

    厳しい叱責もあるが、だが間違いなく俺がこの人を追い詰めてきたんだ。)


  (だから、俺は・・・和解した今でも・・素直になれない・・。好きなのに優しく出来ない。)
   

  (でも、・・・ヒナタ様が悩む姿を見るのは辛い・・。)




  「ヒナタ様」

  ネジは優しくヒナタに話しかけた。さっきから黙り込んでいたヒナタが驚いて顔を上げる。

  もうすっかりあたりは暗くなっていた。チラチラと街灯が点き始めている。

  街灯に薄く照らしだされたヒナタは、おどおどとしながらネジを見詰めてきた。

  「な、なんですか?ネジ兄さん・・・。」

  ヒナタの声が緊張している。彼女は気まずいのか俯いてしまった。

  同時に背中が丸くなり、ヒナタは又、猫背になってしまう。

  ネジの胸が又痛んだ。ヒナタが可愛くて、でも切なくてネジは堪らなくなった。

  「ヒナタ様、アナタは自信を持つべきだ。」

  「え?」

  「・・・もっと堂々と背筋を伸ばせ。猫背は骨を歪めるし内臓にも悪影響を与える。」

  「あ、あの・・・」

  ヒナタは恥ずかしいのか顔が真っ赤だった。ますます縮こまり微かに震えている。
 


  (ヒナタ様・・・、そんなに気にしてたのか?可哀相に・・・。)



  ネジは意を決して、思っている事を素直に伝え、ヒナタを少しでも励ましたいと思った。 

  しかし、素直になる事に慣れていない為ネジは少し躊躇う。だが、思い切って口を開いた。

  「あなたの・・胸は・・・・背を丸めてまで隠す必要はない・・・・。女として自信を持つべき立派なものだ。」

  ヒナタが弾かれた様にネジを見上げて来た。思わず頬が熱くなったが、勢いでしゃべり続ける。

  「男の俺がこんな事を言うのはおかしいかもしれないが、その、あなたは胸が他人より大きいから、

   恥ずかしくて猫背にしてるのだろう?」

  ヒナタは真っ赤になりながらも、コクリと小さく頷いた。ヒナタの胸元に重ねられた掌が震えていた。

  ヒナタの震える睫にネジは息を呑む。鼓動が大きく跳ねた。



  (又だ!又、彼女に触れたくなってしまった!!・・だから、突き放してしまうんだ!自分を抑える為に!)



  もうずっと前からヒナタに対してネジは性的衝動を駆り立てられていた。

  だから、それを感じる時彼はいつもヒナタに冷たく当たってしまうのだ。

  そんな事情からネジは、ぷいっと目を逸らすと視線を逸らしたままヒナタに言った。



  「それに・・・・俯いてばかりじゃあなたの顔が見れないだろう?」

  ・・・・・・せっかく可愛く生まれたのに、とネジは小さく呟いた。

  ちらり、と視線をヒナタに戻すと、彼女は瞳を潤ませ、花が咲き零れるように笑った。

  その可憐で愛らしい姿にネジは・・・時が止まったように魅入られてしまった・・・・。



  「・・ありがとう、ネジ兄さん。」

  瞳を潤ませ健気に微笑むヒナタにネジは微笑んだ。

  「ヒナタ様は俺の大切なひとだからな。」

  目を丸くして驚くヒナタに不敵な笑みを浮かべネジは歩き出した。

  「あっ、あの、それってどういう意味・・・・?」

  背中越しに届くヒナタの焦る声に、さあな、と声だけ返す。

  「まっ、待って!ネジ兄さん。」

  必死で追いかけてくる気配にネジは口元が綻んだ。ヒナタが愛しい・・。

  歩く速度を落としながら、ネジの口を突くのはいつもの皮肉で。

  「ヒナタ様、遅いぞ?それでも忍びの端くれか?」

  心の中で、しまったと思ったが、追いついたヒナタが嬉しそうに笑ったのでネジは安堵したのだった。



                   
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