恐るべき男
「今日も美味しいですよ、ヒナタ様。」 「よ、よかった・・。」 凛々しい従兄の笑顔にヒナタはポッと頬を染めた。朝修練の休憩のひと時。 毎日、任務が無い限りこの秀麗な一つ年上の従兄はヒナタの家に来る。 ヒナタの父、ヒアシに柔拳の稽古を付けてもらう為にである。 昔のしがらみから解放された彼は、すっかり優しい兄のようにヒナタに微笑んでくれた。 それが嬉しくて、そんな彼と触れ合いたくて、ヒナタも毎朝お茶を運ぶのだった。 天才の誉れ高き従兄、日向ネジとの朝の触れ合いは、ヒナタにとって何より大切な ひとときになっていた。 ・・・ヒナタは憧れのナルトとは違うときめきを、ネジに抱いていたのだった。 「おう!!ヒナタ、迎えにきたぜっ!!」 「あ、キバ君・・。おはよう・・・。」 大人しいヒナタとは対照的な、元気で野性味に溢れる犬塚キバがやって来た。 「へっへえっ!!今日はシノがいねえからよ、任務はねえとさ!!」 「そ、そうなんだ・・。じゃあ、今日はお休みだね?」 「いんや、ヒナタは俺と一緒に修行だ!!紅先生からの命令だからなっ!!」 ニヤニヤと喜色満面のキバ。頬がうっすら染まっている。 「そ、そうなんだ・・。じゃ、じゃあ、用意するから、待っていてね?」 「おう!!」 そそくさと立ち去るヒナタの後ろ姿を嬉しそうにキバは見詰めていた。 (やっぱ、可愛いよなあ・・。ナルトなんかにゃもったいないぜ!!) 実のところ、彼は同班のヒナタに恋心を抱いていたのだ。 彼の周りにはいないタイプの大人しくて庇護欲をそそるヒナタは、面倒見のよい 彼には堪らなく好みだったから。 それまで黙って二人のやりとりを見ていたヒアシとネジだったが・・。 ヒナタが立ち去ってから、鼻歌まじりにご機嫌なキバに、ネジは目を細める。 「キバ、二人きりで修行か?」 「ああ、紅先生は所用で来れねえからなっ。」 「だったら、ここでしたらどうだ?俺もヒアシ様もいるこの場所で。」 「なっ!!!!」 驚愕するキバに、ヒアシも頷いた。 「犬塚君、是非そうしたまえ。なに、日向の敷地内には他にも演習場も森もある。」 遠慮するな、とヒアシは付け加えた。 「で、でもよっ、ネジの邪魔になるしよっ!!ほらっ、俺は系統が違うしっ!!」 「だったら、ヒナタ様もそうだ。ヒナタ様におまえの相手は務まらないんじゃないのか?」 「!!!!!」 「・・・犬塚君、今日は特別に私が面白い修行をつけてやろう。」 不敵な笑みをヒアシは浮かべた。その笑みにキバは青ざめ、頷くしかなかったのだった。 「上手いじゃないか。」 「・・・・・・・。」 「私より器用だな。柔拳を極めた私の指使いをも上回るとは・・大した奴だ。」 (いや、指使いは関係ないぞ?!) 内心ヒアシに突っ込みながらキバは黙々と煉っていた。・・そばを。 あれからヒアシは趣味の蕎麦打ちをキバに伝授しようと息巻いたのだ。 唖然とするキバに彼はお構いなしで、今に至るのだった。 「キ、キバ君、おそば打つの、じょ、上手だね?」 背後からはにかむヒナタの愛らしい声。キバは俄然やる気をだした。 「へへえってんだっ!!見てろよっ!三国一の蕎麦を打ってやらあああっ!!」 高速で仕上げられてゆくそれに皆喝采の嵐を送る。 「はあ、はあ、・・出来たぜ?」 以外に重労働だった蕎麦打ちに、キバは肩で息を整えた。 「すごい!!キバ君て、本当に器用だね?」 珍しく瞳を輝かせてヒナタがキバに尊敬の眼差しを向けて来る。 「へっ、こんなん、屁でもねえぜ・・。」 カアッと照れるキバの手から、綺麗に仕上げられた蕎麦のざるをヒナタは受け取る。 そして、彼女はキバに残酷な言葉を放ったのだった。 「ネジ兄さんの大好物が作れるなんて、うれしい・・・・。」 「?????!!!!!」 絶句し目を瞠るキバにネジが勝ち誇ったように笑い掛けた。
「やれやれ、ヒナタ様にも困ったものだ。俺の好物など気にかけなくても良いのになあ。」
ぎっ!!キバが凄まじい嫉妬の目でネジを睨みつけた。 だが、ネジは涼しい顔で相手にもしない。 「犬塚君、お礼に君にも、にしんそばを振舞おう。食べて行きたまえ。」 ヒアシの言葉にキバは、力なく項垂れたのだった。 「お、美味しいですか?ネジ兄さん・・・。」 「ああ、あなたが作るものなら何でも美味いよ。ヒナタ様。」 ネジの熱い視線にヒナタが恥じらい俯く。それを愛しそうに眺めるネジ。 口元が緩みっぱなしのネジなんて滅多に見れないとキバは彼から目が離せなかった。 (こ、こいつ、本当にあのネジかよ?!!) 蕎麦を食べ始めてから、いちゃつき始めたネジとヒナタにジェラシーストームなキバだったが、 もう今はそれどころではなかった。 (・・すげぇもの、みちまったぜ・・。いかにも女には興味ありません、って感じで、 普段すかしたコイツがヒナタの前ではメロメロなんてよ・・・・。) キバが冷や汗を垂らしながら蕎麦を啜っていると、どんっと目の前に皿が置かれた。 何事かとキバが顔を上げると、ヒアシがにっこりと微笑んでいた。 (ぞおおおおおおおおおおお!!) 青ざめるキバにヒアシは皿にてんこ盛りの軟骨とビーフジャーキーを勧めた。 「君の好物だそうじゃないか。ネジから聞いたのでな。用意した。」 「キ、キバ君、軟骨とビーフジャーキーが、こ、好物なんだ・・。そっか・・・。」 (・・・俺の好物には興味なしかいっ!!) 恥らうヒナタに心で突っ込みながらも、それでも可愛いよなあとキバは涙した。 失恋決定かよ、とキバは項垂れる。そうして、半ばやけで軟骨を頬張った。 そして、はたと気付く。 「よう、なんでおめえが俺の好物知ってやがる?」 丁度ヒナタとヒアシが席を立ったその時、キバはネジへ問い掛けた。 ネジは蕎麦のどんぶりから手を離し、箸を置く。そしてニヤリと哂った。 「彼女の身の回りの情報は全て網羅しているからな。」 「は?」 「ヒナタ様と関わる者全ての情報を俺は把握しているんだ。」 「!!!!!!」 キバは声にならない悲鳴を上げた。 (ストーカーだ!!こいつ間違いなくストーカーだっ!!!!) 驚愕するキバにネジは不敵な笑みを浮かべる。 「俺は幼い頃から、ヒナタ様だけを愛してきた。お前なんかとは格が違う。」 諦めろ、とネジはキバに言い放った。 「てめぇ、ヒナタを妹みたく見てたんじゃなかったのかよ?ナルトとの事、 応援してたじゃねえかよ?」 「下らん。あれは、彼女の興味を引く為だ。ナルトの話題を振れば心を開いてくれたからな。」 「てっ!!てめえ、そこまで考えてたのかよ?!!」 「当たり前だ。俺はヒナタ様に対してだけは手段を選ばん。」 恐るべき男・・・!! 「でも、俺の苦労もこれで報われる。ヒナタ様と恋人になる日も近いしな・・。」 ぼそっと呟かれたその言葉に、キバは絶句したのだった・・・。 ☆ 葉樹様リクで、ネジヒナ←キバで、嫉妬するキバでした。 なんだか話が逸れてしまいましたが、いかがでしょうか・・?
|