仲直り


 
 
 あの時、俺は死にそうになったあの時、ナルトと死んだ父の顔しか浮かばなかった。

 二人とも俺の心を導くきっかけになった存在だから。敬愛する存在だから。

 だから俺のまぶたには彼らの声しか思い浮かばなかったんだ。



 「ナルト・・・」

 気が付いたとき俺の口を付いて出たのはその名前だった。

 「気が付いたか?」

 まだぼんやりとする視界に段々はっきりと浮かび上がる人物に俺は息を呑んだ。

 「ヒアシ様!」

 「そのままで良い。・・危なかったらしいな。」

 ヒアシ様は凛とした声でそう言った。

 俺は痛む身体に顔を顰め仕方なく起き上がるのを諦め横になったままヒアシ様を見上げた。

 ヒアシ様は例の土下座以来何か吹っ切れたように穏やかになっていた。

 そんな空気を漂わせていた。

 「ナルトとか申す者は、やはり重症だったらしいが助かったらしい。安心しろ。お前よりは回復が早いらしい・・」

 「・・そうですか・・」

 俺は心底ほっとした。だが、一番に気に掛けるべき事を思い出しヒアシ様を見た。

 「サスケは?」

 「大蛇丸のところに行ったらしい。任務は失敗だ」

 「そうですか・・」

 俺よりも奴の闇は深いと言うわけか・・。ナルトでさえも声が届かなかったか・・。

 俺は落胆した。

 「それより、ネジ、明日から付き添いの者を寄越そう。その怪我だ。長引きそうだしな。」

 宗家の使用人か。ここは完全看護じゃない。身寄りのいない俺にはありがたい。

 ここは素直に好意に甘える事にした。

 「有難うございます。」

 「なに、あやつも暇でな。任務もないし、いい経験になるだろう。」

 「え?」

 「明日からヒナタがお前の付き添いをする。」

 ヒアシ様の言葉に俺は目の前が真っ暗になった。 
 

 
 「だ・・大丈夫ですか?」

 開口一番がそれだった。

 オドオドと俺の顔色を窺いながらヒナタ様は申し訳なさそうに俺の顔を濡らしたタオルで拭き取る。

 まだ動けないから自分で顔も洗えない。身体だって清められない。

 だから彼女は付き添いらしく俺の身体を拭いている訳なのだが・・。

 「手と足と・・後はまだ、怪我してるから無理ですね・・」

 「もういいから。」

 「あの・・あの・・、じゃあ、お食事を・・」

 「・・・・」

 「あーん」

 「!!」

 「?・・ネジ兄さん、あーんして?」

 困る!!天然でこの人は困る!!

 そんな潤んだ目でそんな甘い声で看病なんてされたら・・・!!

 まさか?ヒアシ様はこれを狙っているのか?



 俺は日に日にこの愛らしい従妹に心を奪われていった・・・・・。



 「明日は退院ですね?よかった・・」

 ふふっと口元を綻ばせて頬を紅潮させるヒナタ様に俺はもう完全に恋に堕ちていた。

 元々憎悪を抱きつつも心の底では執着し続けた相手だけに自覚するのは簡単だった。

 だが・・今更なので試験でのことは謝っていない。

 彼女も気に止めてもいないようなので流されてきてしまったが・・。

 いいのか?

 「ネジ兄さん、帰りましょう?」

 「ああ・・」

 ヒナタ様に腕を支えられ俺は病院を後にした。

 2ヶ月は長かったが、お陰でこの人とすっかり打ち解けられた。

 もう俺を脅えた目で彼女は見ない。それが何より嬉しかった。

 でも・・・。俺はこの人にひどい事ばかりしてきた。

 いいのか?こんな俺ばかり甘えてばかりで・・。

 いや・・そんなのはだめだ。俺は決意した。

 「ヒナタ様、俺はアナタを守り続けると誓う。」

 「え?」

 「分家としてでなく、従兄として、あなたの恋を応援し、あなたを守ると誓う。」

 「ネジ兄さん・・・・」

 彼女の澄んだ瞳が潤んだ。はにかむように微笑む。

 「ありがとう・・・」

 ちくりと胸が痛んだが顔には出さない。

 俺も男だ。この彼女への恋心は封印して、ナルトへの彼女の恋を見守ろう。

 ナルトにだったら・・あいつにだったら俺も諦められるから・・。
 



   ☆(2005/1/7金に書いた妄想、でもアニナルで否定されちゃったね、入院中仲直り説、ぐすん)



                       
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