ライオンハート (後日談)
「俺の看病なんか、もういいから」 ネジは不機嫌そうに眉を顰める。 「ううん、私がネジ兄さんの傍にいたいの。いいでしょう?」 「ヒナタ様・・・。」 ネジが瀕死の重傷を負ってから半月が過ぎた。 奇跡的に意識が戻り、その後は順調に回復している。 それはもちろんネジの鍛え抜かれた体と医師の腕のよさもあったが、 影で献身的に看病するヒナタのおかげでもあった。 なにより。ヒナタを深く愛するネジにとって彼女の存在は生きようとする勇気の源だ。 そして、一日でも早く回復して彼女を守りたいと、それだけをネジは願う。 リハビリでヒナタに支えられながらネジは窓の外に広がる鮮やかな新緑の世界に目を細める。 「素晴らしいな・・。」 世界はこんなにも美しい。生きていればこそ、そう実感できるのだ・・・。 「早く元気になってね?そうしたら・・」 「?」 「・・私と一緒にどこか出かけませんか?」 頬を朱に染め上げてヒナタが潤んだ瞳でネジを見詰めた。 「に、兄さんと二人だけで、過ごしたいの、こ、恋人のように・・。」 「え?」 「わ、わたしはあなたが好きだからっ・・だからっ・・」 何より嬉しいその愛の告白にネジは自分の耳を疑った。 これは夢ではないかと暫く思考が麻痺する。 そうしておぼろげな意識で視界に映るヒナタの、息を呑むほどの愛らしいその表情に ネジは鼓動が大きく跳ね上がり我に返る。 ネジの腕を羞恥に震えながらもきゅっとヒナタが握り締めた。それにネジは、はっとする。 「ヒナタ様・・・。」 それ以上言葉が見つからない。容易く言えない。 どんな言葉もネジが長年抱き続けてきたヒナタへの想いの深さに比べれば足りな過ぎる。 どうやって伝えたらいい?苦しそうに歪んだネジの表情をヒナタは誤解したのか、俯いた。 「ごめんね・・・。迷惑だよね?」 弾かれたようにネジはヒナタを抱きしめていた。 「に、兄さん?!」 傷に障るとヒナタが心配したが、無視した。 「ヒナタ様・・!!あなたを守るために俺は生まれてきたんだ・・!!愛してる・・。」 (どうして・・?こんな簡単な言葉しか言えないんだろう?でも、これが、これだけが真実だ。) 己の言葉の足りなさにもどかしい悔しさが込みあがりネジは思わず唇をかみ締めてしまう。 だが、ヒナタがそっと優しく抱きしめ返してきた。それに胸が熱くなり溜息が彼の口から零れる。 吐息をつくネジの胸にほお擦りしながらヒナタが囁いた。 「・・私も、私もあなたの為に生まれてきたんです。」 (あなたを愛するためだけに・・・。) ヒナタの言葉がネジの体を痺れさせる。甘い心地よさ。 やっと。
やっと、触れ合えた二つの魂。
結ばれる為に生まれてきたのだと、魂の奥深いところでは分かっていたのだろう。 触れあったところから暖かいものが心も体も満たしてゆく。そんな気がした。 「ヒナタ様・・、あなたを決して離さない・・。」 「嬉しい・・にいさ・・、いえ・・」 「?」 「ネジ様・・・。」 兄さんとはもう呼ばない。ネジはヒナタの愛する男だ。 ネジは大きく目を瞠り、ヒナタから体を離すとまじまじと彼女を見詰めてきた。 ヒナタは、そんなネジに優しく微笑んだ。 「ネジ様、そう呼んでいいでしょう?」 「ヒナタ・・・。」 若葉が萌えるように鮮やかなこの世界。なにもかもが二人を祝福するように色付いていく。 ―なによりも君を愛す―
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