ダンス


木ノ葉隠れの里、火影主催のダンスパーティにヒナタは日向宗家の代表として招待されていた。

 各界の著名人や有力者のためのパーティで特にパートナーが必要という訳でもなかった。

 だがヒナタは迷わず従兄のネジを正式なパートナーとして誘っていた。

 改めて誘わなくてもネジはヒナタの傍については来てくれるだろう。

 分家の彼は宗家を守らねばならないのだから。

 女性に言い寄られるのを嫌うネジは会場の外から目立たずにヒナタを護衛するに違いない。

 だが、それではネジとダンスは踊れない。ヒナタの望みとは大きく違う。

 ヒナタの望みは身分など関係なく、ネジと過ごしたい、それだけなのだから。

 それに、ヒナタは彼の目の前で他の男と踊るのは嫌だった。

 何故ならネジはヒナタにとって唯の従兄なんかではないからだ。

 淡い恋心を密かに抱いている相手。そんな相手の前で他の男と踊れるわけがない。

 苦い憎しみの目で彼には見られてきたけれど、和解したネジとの仲は昔に比べてもすこぶる良い。

 ネジはヒナタに今までの酷い仕打ちを償うように優しくしてくれたし、ヒナタも彼を許し脅えなくなった。

 そんなネジとの触れ合いは、ヒナタに新たな感情を芽生えさせるのに充分な程濃密で・・。

 憧れのナルトとは確実に違う、魂までもが甘く疼くようなときめき、切ない位に愛しくて・・・。

 (これが・・恋なのかな・・。私はネジ兄さんが・・・好き・・・。)

 恋を自覚したヒナタは自分でも驚く位に積極的になってしまい、自分からネジへ歩み寄ったのだった。



 一方ネジにとってヒナタは当の昔から恋の対象だった。

 4歳でヒナタに一目ぼれした彼は、拭えぬヒナタへの恋情に父を宗家に奪われた憎しみ故に

 苦悩し続けた訳だが、その憎しみからも解放された今となっては素直にヒナタを愛し認めていた。

 だから。

 奥手で恥ずかしがり屋のヒナタからアプローチされたときは天にも昇る心地だった。

 洞察眼に優れたネジには、ヒナタの自分に抱く好意がすぐに分かった。

 夢のようだと心から世界のすべてに感謝していた。

 妹なんかではなく、一人の女として求め続けてきたヒナタ。

 ネジは幸せに酔いしれながらダンスパーティでヒナタと踊り続けた。




 「喉が渇いたでしょう?なにか飲み物を持ってきますね。」

 2,3曲踊ったあと、ネジは少し疲れている様子のヒナタの為に飲み物を取りに行く。

 「すみません、兄さん・・。」

 頬を上気させヒナタはネジの長身ですらりとした後ろ姿に見惚れていた。

 今夜のネジは最高にすてきだった。

 普段でも秀麗で人目を引くが、きちんと正装したネジは更に衆目を集めていた。

 艶やかな長い黒髪、端整な顔立ちは女のヒナタでさえ羨ましい程に見目麗しい。

 まるで神の寵愛を一身にうけたような天才で美しい従兄。

 ヒナタはひそひそと囁く女たちのネジへの羨望の眼差しに胸が劣等感に締め付けられた。

 (ネジ兄さんは・・素敵だから・・。本当は私なんかの相手をするような人じゃないもの。

  私が宗家だから、だから逆らえないのかもしれない・・。今日だって本当は・・)
 


 暗い思考に沈むヒナタの手に誰かが触れた。

 驚いて見上げた先には、ネジよりも美しいと評判のうちはサスケが立っている。

 「よう。今、一人か?」

 「あ・・うん。」

 ネジ以外の異性は苦手だとヒナタは思う。緊張して焦ってしまうのだ。

 「ふうん。お前、さっきからネジとばっかりだな?誘う男を片っ端から断ってさ。」

 「う、うん。だってパートナーは兄さんだし、一緒にいたいから・・」

 ヒナタの言葉にサスケが不機嫌な表情をその端整な顔に浮かべる。

 「何だ、お前ネジが好きなのか?」

 「えっ!!」

 赤く頬を染めて焦るヒナタにサスケは眉を顰め思わず舌打ちしていた。

 「くだらないな、あんなののどこがいいんだ?俺のほうが優れているぞ。」

 「そっ、そんな事・・!!」

 「むきになるなよ。証拠をみせてやろうか?」

 サスケはそう言うとヒナタの腕を強引に掴んだ。華奢な身体はあっけなくサスケの腕の中に捉えられていた。

 「やっ・・いやっ!は、離して?サスケ君・・・!」

 縋るようなそのヒナタの瞳にサスケはゾクゾクする。

 (いい表情だ。お前はやっぱり最高だよ、ヒナタ。)

 サスケはヒナタを愛しているわけではない。

 だが、彼はヒナタを性愛の対象として気に入っていた。いつもヒナタにはそそられる。

 「ほら、もっとしがみつけよ!そんなに離れてちゃ踊れないだろ?」

 冷たい、雄の視線がヒナタを竦ませる。

 強く拘束され、ヒナタはサスケに密着するように踊らされてしまう。

 (い、いやっ・・!兄さん、たすけてっ・・・!)

 ざわざわと強い嫉妬の視線が余計にヒナタを脅えさせる。

 「なによっ!!あんな娘のどこがいいのよ!!」

 里の若い女性のあこがれの的であるサスケがヒナタと踊る様は会場をざわめかせる。

 ネジ以上の嫉妬に晒されヒナタは泣きそうになった。

 「ふん、お前、可愛いな・・。泣いてるのか?」

 サスケの黒い瞳が暗い熱を内包し、薄い哂いが口元を歪めていた。


 (怖い・・!)


 本能的にヒナタはサスケに恐怖する。サスケの手がヒナタの腰をぐっと抱き寄せる。

 「あっ・・!い、いやっ・・」

 「ふ・・。こんなにしてくれた責任は取ってくれるんだろう?」

 いくらうぶなヒナタでも知識はある。密着し押し当てられたサスケの欲情したものに脅え涙を浮かべた。

 そんなヒナタの様子にサスケは益々嬉しそうに歪んだ笑みを浮かべる。

 それから、耳元で、その美しい顔には似合わない下品な口調でサスケがヒナタへと囁いた。

 「なあ?やらせろよ…お前の中に入れたいんだ、いいだろう?」


 刹那。


 「俺のパートナーを返して貰うぞ?」

 何よりも安心する声がヒナタの耳に入ると同時に身体がふわりと浮かんでいた。

 とすっと優しく抱きとめられて、淡い香りにネジだとヒナタは悟った。

 「にい・・さん・・」

 恐怖で潤んでいた瞳にネジは息を呑む。そして不敵に哂うサスケを強く睨みつけた。

 「・・・二度と彼女に触れるな・・!!」

 怒りを含んだ低い声。ネジは本気でサスケを怒っている。

 ネジに守られるように抱きしめられていたヒナタの胸が熱くなった。

 「・・ふん、何熱くなってんだ。からかっただけだろ?」

 「下衆が・・。今回は見逃してやるが、次は無いと覚悟しておけ!」

 そう吐き捨てるように言うとネジはヒナタを支えながらサスケから離れた。

 「踊ろう、ヒナタ様。嫌な事も忘れられる。」

 「は、はい・・」



 男らしいネジのリードで軽やかにヒナタは踊る事が出来る。

 まるで羽が背中にあるような感覚でとても楽しかった。

 羨望や嫉妬の視線も囁きも、もう気にならない。

 (私、守られている・・・。)

 その身だけではない。心までネジはヒナタを守ってくれているとヒナタは実感していた。

 宗家だから、ではない。ネジの手が確かな強さをもってヒナタを支えてくれている。

 ネジの瞳が熱くヒナタを見詰めている。それはヒナタと同じ恋慕う者の眼差しで・・・。

 (ああ、愛している・・・ネジ兄さん・・・・。)

 曲調が甘くなったと同時にヒナタはネジの胸にそっと寄り添った。

 甘えるように、縋るように、ネジの腕の中で夢を見続ける・・・・・。



 ネジの視界にサスケの嫉妬に歪んだ顔が入った。

 (馬鹿なやつだ。自分の気持ちを自覚していないのか?)

 サスケはヒナタに恋している。だが、闇に堕ちている彼はそれを単なる欲望だと誤解しているようだった。

 (・・どちらにしろ、お前なんかには渡さないがな・・。)

 ネジの腕の中で安心して微笑む彼女はもう自分だけのものだ。

 そっと自分に甘えるように顔を埋めるヒナタの艶やかな髪にネジは口付ける。



 甘い曲が終わり、すこしそれを残念に思いながら、二人はゆっくりと離れた。

 「・・・・次で最後だ。思う存分楽しもうじゃないか。」

 「は、はい、ネジ兄さん!」

 しなやかな肢体。鍛えられた忍びの二人は息が驚くほどぴったりで、華麗なダンスは見る者の目を奪う。

 華やかな光りのなか、会場中の絶賛を浴びながらネジとヒナタは踊り続けたのだった。





 ☆ まめ太さまリクで、大人SS「望み」の番外編でした。

   頑張ってこれです。でも、書いてて楽しかったです!


                                     
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